2009/01/28
科学は☆を追い詰めていた?!

給餌後、苦しみだしたマスティフ。動物病院で緊急処置を受ける前の様子。腹部の膨張に注目!
犬の急性胃拡張(AGD)に関する研究は、1906年・1908年にキャデック(Cadeac)というフランス人の学者が「胃捻転」の名前で最初に報告された。このあと、この病態の解明に向けて病理学者らの研究が進んでいく。1931年 ニーベルレ及びコアーズが(Nieberle&Cohrs)、1937年 ミュラー及びグロス(Muller&Gloss)、1938年 ヒュテラ、マレック及びマミンガー(Hutyra,Marek&Mamminger)、1939年 マッカン(McCunn)、1944年 ブラックバーン及びマクファーレン(Blackburn&McFarlane)、1952年 ジョーンズ(Jones)、1953年 マクブライド(McBride)、1960年 タット及びヤロウ(Tutt&Yarrow)、そしてスティール(Steele)、1964年 ターナーがダックスフントで(Turner)、そして1967年・1969年には、ファンクイスト及びガーマーらが(Funquist&Garmer)、胃内容物排出の遅延は、AGDが回復した犬において示されており、高い再発率の一因となっていることを示唆している。これら複数の研究で大型犬がAGDもしくは稔転のリスクが高いことがわかってきた。なかでも、病態の発生機序を論じたブラックバーン及びマクファーレンらの研究が評価されている。彼らは、胃拡張が一次性であること、胃が強く捻転する犬もいれば、それがほとんど回転しない犬もいると結論付けた。さらに、捻転を2つの群に分けることに成功している。第1群:270°時計回り、第2群:90°反時計回り。しかし、1955年にスュテゥンツィ、トイシァー及びシャトリンらが(Stunzi,Teuscher&Scheitlin)、時計回りは180°~360°まで幅があることを結論付けた。
1974年には、ヴァンクライニンゲン博士らが(Dr.Van Kruiningen)、6年半に及ぶ研究結果を報告している。剖検で、AGDの犬の死因は、発酵ガスによる圧迫であること、捻転・破裂及び虚血性壊死は合併症であること、胃内容物からガス産生性の細菌クロストリジウム・パーフリンジェンスを検出した。関連要因として、高度に加工処理された荒挽き大豆と穀物粒の炭水化物及びドライドッグフードが危険因子(犯行)であることが明らかにされている。
ところが1977年に、ケイウッドらが(Caywood)、AGDに罹患した犬7頭の手術時における検討を報告した。彼らは、胃内容物を培養した3症例のおいてクロストリジウム属の細菌を検出できなかった。
そして「我々のデータは、嚥下された空気が犬の胃拡張・稔転症候群における胃内ガスの主な原因であるという概念を支持する結果となった。この説は、大気中の空気に対する胃内ガス濃度の類似性に基づいている。」として、ヴァンクライニンゲン博士とは異なる結論を打ち出した。結局この論文が、一部の学者?らに引用されるなど、空気飲み込説?が乱れ飛ぶ原因となっている(第2事件の始まり)。
この結果に重大な疑問を抱いたヴァンクライニンゲン博士は、ロゴルスキー(Rogolsky)と共に、先行研究におけるさらなる検証と追試の実験を試みたところ、やはり細菌発酵が犬のAGDの重要な要因(事件)であることを示し1978年に、再度論文で報告した。これによって、ケイウッドらの見解を科学的に否定した。
さらに同年、ワーナー(Warner)及びヴァンクライニンゲン博士は、犬の胃におけるクロストリジウムの発生率とAGDとの関係に関する追加の研究結果を報告している。クロストリジウム・パーフリンジェンスが正常な犬の胃に存在することが明らかになり、AGDの9症例中6症例から分離された。正常な犬に比べてグラム陽性の細菌叢がAGD症例では優位であり 大量の胃内容物が存在していた。また、AGD症例からの各検体は、培養をしている時に盛んにガスを産生していたとされる。
1979年 ランドリー(Landry)及びヴァンクライニンゲン博士は、野生肉食動物の食習慣:胃内容物の分析に関する文献調査を報告している。自然界に生息する肉食動物(犬科)オオカミ、コヨーテ、キツネ、の主要な食餌対象は、家禽・ウサギ・シカ・齧歯類・ネズミ・屍肉・小型哺乳類・鳥類・ヒツジ・家畜・ときに果実や草類を含んでいると結論付けたうえで、これらの知見を 家畜の犬種の食餌飼料に生かすべきであると警鐘を鳴らしている。
1980年 ベネットらが(Bnnett)、サルにおけるAGDの胃内容物、血液及び餌の微生物学的研究を報告している。AGDを発症した24頭のサルのうち、21頭の胃内容物からクロストリジウム・パーフリンジェンスを検出した。18頭の正常なサルのうち、2頭の胃内容物からもクロストリジウム・パーフリンジェンスを検出した。クロストリジウムは罹患していた5頭のサルを飼育したケージから採取したモンキービスケットから及び、受け入れた11ロットのうち5ロットから分離された。これらのビスケットを正常なサルに餌として与えたところ、AGDを発症し、この微生物を胃内容物から分離することができた。この病態において、大量のガスを産生することを説明できる微生物は他に分離されていないとされる。
1981年 スタインらが(Stein)、マーモセットにおけるAGDに関する研究結果を報告している。ゲンタマイシン及びフラゾリドンを用いた抗微生物療法後にマーモセットのコロニーにおいてAGDの診断がなされた。全部で29頭の罹患したマーモセットが、AGDを発症した後5週間の間に死亡した。検視した25頭全てのマーモセットの胃内容物にクロストリジウム・パーフリンジェンスA型が検出された。抗微生物療法を行った結果生じた胃内細菌叢の変化が、誘発要因とされた。
1985年 バローズ(Burrows)及びその他が、犬の胃内容排出及び運動性に対する食餌の影響:急性胃拡張における関与の可能性、と題する論文を報告した。バローズは、「2つの研究において(ヴァンクライニンゲン及びケイウッド)、胃内部のガスの分析は、大気と同じガス濃度であることまた、水素あるいはメタンのどちらかの濃度がかなり欠如していることが明らかになった」と、独自の見解を述べたうえで 「大部分の大型犬はコストと扱いやすさから、シリアルベースの食餌を与えられているため、これらの食餌が胃拡張・稔転の誘発因子であると誤解されてきた可能性がある」と、結論付けた。ところが、論文に記されているのは、犬用実験飼料をたった1日(すなわち、3回の給餌のみ)行われた実験結果にすぎず、この1日実験の不当性に関して、バローズ及び論文のアメリカ獣医学研究ジャーナル社の編集が即刻、指摘されている。
1987年 ヴァンクライニンゲン博士らは、犬の胃機能に対する餌と給餌頻度の影響に関する研究結果を報告している。この研究では、1年間の給餌試験及び検視が行われた。そして本研究によって得られたデータが、市販のドライドッグフードと給餌頻度がAGD発症の原因である可能性をさらに強めたものと結論付けた。
ヴァンクライニンゲン博士らによる犬の急性胃拡張に関する一連の研究は、世界的的権威があるとされる獣医病理学教科書「トンプソンの特別獣医病理学」(Thompson'sSpecialVeterinaryPathology)に記載されている。
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