2009/08/20
ローレンス・T・グリックマン GDV
陳述書
1) 経歴
私は現在パデュー大学(米国インディアナ州)獣医学部病理生物学科で疫学および環境医学の教授をしています。同大学においては臨床疫学部長も兼務しています。私は、ニューヨーク州立大学(ビンガムトン)において生物学の学士号および生理学の修士号をそれぞれ1964年および1966年に取得しました。また、1972年にペンシルベニア大学獣医学部でD.V.M.を取得しました。1975年には、ピッツバーグ大学公衆衛生大学院において、疫学および伝染病学のM.P.H.を取得し、また、1977年には疫学および公衆衛生学の博士号を取得しました。
私は米国疫学会から認定を受けており、1982年に特別研究員の地位を授与されました。私は、現在フロリダ州、ニューヨーク州およびペンシルベニア州において開業医の免許を持っています。
疫学では、人間および動物集団における疾病・健康のパターンを特定するために統計的分析が用いられます。1974年以降、私は、疫学者として動物の疾病および健康問題に関する250件を超える研究を行い、論文を発表してきました。これらの研究においては、疾病を有する対象と疾病を有しない対象を一組としてデータをチェックし、統計的分析により、遺伝子、環境または行動様式等の要因が当該疾病といかなる相関関係にあるのかを測定します。これらの研究により、疾病の原因が特定されることはありませんが、特定の環境、遺伝子プロファイル、行動またはその他要因を有する人間または動物が一定の疾病を発症する危険性がどの程度あるのかということがわかります。
1994年以降、私は、胃拡張-胃捻転(GDV)の疾病に関して、私の知る限りでは、学会の他のどの研究者よりも多い、13件の論文を執筆してきました。論文の詳細については末尾添付の履歴書を御参照下さい。また、私は、GDVの発症およびそれに起因する死亡の原因を特定するために、約2000頭の飼いイヌを対象に最長5年間の追跡調査を行いました。これは、伴侶動物(イヌ、ネコを指します)の健康に関する過去最大規模の研究です。さらに、アメリカン・ケンネル・クラブ、米国コリークラブ、モーリス動物財団およびラルストンピュリナ>(Ralston-Purina)を含む多数の団体から、GDVに関する研究支援を目的とするものその他の助成金を受けています。また、1996年から現在に至るまでの10年間、パデュー大学における「イヌの胃拡張-胃捻転研究プログラム」の部長を務めています。
GDVの危険因子に関する研究および一般的調査結果
私は、GDVに関する研究の一環として複数のデータを検討し分析しました。私が分析したデータベースの中で最も大規模なものは、Veterinary Medical DataBase(VMDB)から抽出したものです。同データベースには、ネコやイヌなどのペットの疾病に関し、米国に存する大学付属動物病院からの提供されたデータが標準化されて集積されています。このデータベースには、1980年から1989年までの期間における12の動物病院の診療録に記録された、GDVを発症した1934頭のイヌ(「症例」)およびGDVを発症していない3868頭のイヌ(「対象」)に関するデータが含まれています。このデータベースおよびその他の4-5組のデータベースにより、大規模な回顧的情報を分析することができました。
さらに、1994年から1998年まで、私は、パデュー大学獣医学部の臨床疫学部でGDVに関連する危険因子を調査するイヌの予測研究を実施しました。この研究では、GDVを発症しやすいとして知られる11種類の合計1920頭(秋田犬111頭、ブラッドハウンド126頭、コリー198頭、アイリッシュセッター264頭、ロットワイラー113頭、スタンダード・プードル135頭、ワイマラナー100頭、グレートデン216頭、アイリッシュ・ウルフハウンド193頭、ニューファンドランド298頭、およびセントバーナード176頭)のイヌが研究対象となっています。これらのイヌは研究開始時点ではすべて健康でGDVの病歴はなく、1998年まで5年間にわたり観察されました。私が知る限り、これは、この種の予測研究の中では世界で最も大規模なものです。
10年以上の期間に及ぶ研究で集積されたこれらのデータから、私は、GDV発症の危険性を高める因子について複数の結論を得ました。まず、第1に純血種のイヌは、雑種犬に比べてGDVの危険性が平均して高いこと。第2に、イヌのGDVの危険性は加齢に伴い高まること。第3に、兄弟姉妹、子供など第一度近親者がGDVを発症しているという事実はGDVの危険性と関係すること。第4に、一般に、同じ犬種でもサイズが大きくなればなるほど、GDVを発症する危険性が高くなること。第5に、GDV発症の危険性は、イヌの体格に関連しており、その中でも深くて狭い胸郭を持つ犬種のGDV発症の危険性が高いこと。第6に、同じ犬種の中でも痩せたイヌまたは生まれて最初の1年に重病もしくは慢性疾患を患ったことのあるイヌは、GDV発症の危険性が高いこと。第7に、「怖がり」の性質を持つイヌは、GDV発症の危険性が高いこと。第8に、早食いするイヌは、GDV発症の危険性が高いこと。第9に、高い位置にある餌皿から食べるイヌは、GDV発症の危険性が高いこと。そして最後に、1日数回に分けて少量の餌を給餌されるイヌよりも、1日1回大量の餌を与えられるイヌのGDV発症の危険性が著しく高いこと。
上記に記載する因子のなかでも、最も重要な危険因子は、体格、年齢、第一度近親者にGDVの病歴があること、高い位置にある餌皿からの食事および1日に1回大量の食餌を与えられることです。さらに、ストレスがGDVを引き起こす触媒作用になることも研究で証明されました。例えば、旅行、新しい環境、食生活の急激な変化は、イヌのGDV発症を誘発するようです。高い危険を有してるイヌにこれら複数の要因が加わった場合、そのイヌがGDVを発症する可能性は非常に高くなります。
GDVは、種々の要因によって引き起こされる多因子性の疾病です。私が知る限り、GDVを引き起こす単一の原因はなく、各々共通点のない複数の要因が、あるイヌがGDVにかかりやすいか否かということに影響を与えているのです。第一度近親者のイヌにGDVの病歴があるイヌを繁殖させない、1日に2、3回に分けて少量の餌を与えるなど、GDVの危険排除または軽減するために、危険因子を知っておくことは重要です。それでも、これらの予防的処置を行うことよりGDV発症を完全に防ぐことはできません。
また、一定の大型および超大型犬は、その体格ないし体系ゆえにGDV発症の危険性が特に高いことが分かりました。圧倒的に危険性の高い犬種はグレートデンです。計算したところ、生後8年の間に、グレートデンは42,4%の確率でGDVを発症することが分かりました。私は、更なる研究の結果、飼い主がどれだけ予防策を講じるかに関係なく、グレートデンはその生涯のある時点において50%近くの確率でGDVを発症すると考えています。飼い主がその飼育に最善を尽くしたとしても、グレートデンの場合GDVを発症する可能性は非常に高いのです。
GDVの再発予防における胃腹壁固定術の重要性
GDV発症の危険性が低いイヌを選択せず、グレートデンのように危険性の高いイヌを飼うならばGDV発症の危険性を確実に減らすための唯一の方法は、胃腹壁固定術を施すことです。胃腹壁固定術は、胃の位置を正常な状態に戻し固定させる手術であり、GDVの再発予防に最も効果的であることが証明されています。GDVを発症したイヌに胃腹壁固定術を施さなかった場合、再発する確率は71%に達します。(1995年Egertsdottir)。これに対して、適切な処置を受け、すぐに胃腹壁固定術の手術を行ったイヌのGDV再発率は5%未満でした(同書)。ヨーロッパおよび米国の複数の臨床報告で、すべてのイヌに関して、胃内の空気の除去(減圧)を行った後、速やかに胃腹壁固定術を行うべきことが推奨されています。私は、手術を行わない場合のGDV発症率の高さを考えた場合、危険性の高いイヌ、特にグレートデンに関しては、GDVに罹患する前であっても予防的に胃腹壁固定術を施すだけの価値があると考えています。
私の研究から、GDVによる死亡率は33%に達することがあると判断しています。飼い主が、GDVの症状を早期に発見し、すぐに必要な処置を講じることが、イヌの生存に極めて重要となります。
ヒルズ社の「サイエンス・ダイエッット」とGDVの関連性について
私が行った研究を含め、GDVの原因および危険因子に関し行われた研究の中で、特定のブランドのドッグフードがGDVと関係があるまたは発症原因であるとされるものは存在しません。
私は5年間の予測研究において使用されたデータに基づき、GDVを発症したイヌ(「GDV発症グループ」)とGDVを発症しなかったイヌ(「GDV未発症グループ」)が給餌されていた市販のドライ・ドッグフードを、ブランド別に比較してみました。この分析結果については添付を御参照下さい。
5年間の予測研究で調査対象となったイヌのうち、1592頭のイヌについては完全な食餌情報が得られています。1592頭のうちGDV未発症グループは合計1488頭、またGDV発症グループは合計104頭でした。これらのイヌに対しては、およそ70種類の異なる市販のドライ・ドッグフードが与えられていました。私達は、飼い主に対して、食餌に何らかの変化があった場合は私達に連絡するようにお願いするとともに、半年毎にイヌに変化がないかを確認しました。
GDVを発症しなかった1488頭にうち、62頭(4,2%)はヒルズ社のサイエンス・ダイエット製品を給餌されていました。反対に、GDVを発症した104頭のイヌの中では、3頭(2,9%)のイヌがヒルズ社のサイエンス・ダイエット製品を給餌されていました。ヒルズ社の成犬用サイエンスダイエット・メンテナンスに限ってみると、メンテナンスは、GDV発症グループのうち2頭(1,9%)に給餌されていたのに対して、GDV未発症グループでは、38頭(2,6%)のイヌに給餌されていました。したがって、GDVを発症したイヌの中に占めるヒルズ社のサイエンス・ダイエット製品を給餌されていたイヌの割合は、GDVを発症しなかったイヌの中にサイエンス・ダイエット製品を給餌されていたイヌの占める割合よりより少なかったのです。
これを別の角度から見ると、研究対象となった1592頭(いずれもGDVを発症しやすいイヌ)のうち、104頭(6,5%)がGDVを発症していますが、ヒルズ社のサイエンス・ダイエット製品を給餌された65頭の中では3頭(4,6%)のみが、また、ヒルズ社の成犬用サイエンスダイエット・メンテナンスを給餌された40頭の中では2頭(5%)のみがGDVを発症しており、この確率は研究対象となったすべてのイヌに対してGDVが発症する確率である平均6,5%をかなり下回っていました。
この割合を、研究において給餌された別のその他大手ドッグフードブランドと比較すると、ユカヌバ製品を摂取したイヌは、GDV未発症グループには79頭(5,3%)おり、また反対にGDV発症グループには7頭(6,7%)いました。ユカヌバ製品を給餌されていた86頭(8,1%)にうち、7頭がGDVを発症したのです。また、アイムズ製品は、GDV未発症グループの123頭(8,3%)、GDV発症グループの13頭(12.5%)に給餌されていましたが、アイムズ製品を給餌されていた136頭のうち(9,5%)がGDVを発症したことになります。結論としては、GDVを発症したイヌの中でユカヌバまたはアイムズのいずれかの製品を給餌されていたイヌはより多かったのであり、これらの製品を摂取したイヌがGDVを発症した割合は、他の製品を給餌されたイヌよりも高かったことになります。
ヒルズ社のサイエンスダイエット以外の製品を給餌された1527頭のうち、GDVが発症した割合は6,6%(1527頭のうち101頭)でした。これと比較すると、ヒルズ社の製品を給餌されたイヌのGDV発症率は4,6%、またヒルズ社の成犬用サイエンスダイエット・メンテナンスについては5%でした。したがって、ヒルズ社のサイエンスダイエット製品を給餌されたイヌは、他の製品を給餌された場合と比べて、GDVを発症しにくかったことになります。
要約すると、私達の研究において、ヒルズ社のサイエンスダイエットのドッグフード製品が、イヌにGDVを発症しやすくさせるとする証拠はないのです。
大豆または発酵とGDVには関連性がないことについて
私が知る限り、市販のドッグフードに成分として含まれる大豆が胃内においてGDVを発症させる原因となるガスの発生を促進させること、また何らかの形で大豆がGDV発症の危険性に関与していることを証明した研究はありません。逆に、私の研究では、大豆がGDVとは無関係であることが証明されています。
私は、個人的に、GDVを発症したイヌの胃内におけるガスは、過度に呑み込んだ空気であり、バクテリアの発酵によって形成されたガスではないと考えています。私がこのように考えるのは、GDVを発症したイヌの胃内におけるガスが、室内の空気と同じ成分を有することを証明したDennis Caywood博士の研究に基づいています。また、胃拡張は数分で起こることもありますが、発酵によるガスはこれほど早く起こらないので、両者は矛盾しています。さらに、私の経験では、胃内に発酵するような食物が一切残っていない状態にある深夜の時間帯にGDVを発症したイヌの症例も多くあるのです。GDVを発症したイヌの胃内から処置の過程で取り出された食べ物が発酵していたようであったと専門家でない方がコメントしているのを見たことがありますが、これが発酵でないことは明らかです。胃内から取り出された食物は、例えば、胃の不調によりイヌが吐いた物(発酵されていない状態のもの)と同じものであり食物が胃内の高い酸性環境において分解された結果です。
結論:
一定の遺伝的な要因を含む様々な要因、特にイヌの体格および体型が、イヌがどれだけGDVを発症しやすいかに影響を与えます。胃腹壁固定術を施す以外に、危険性の高いイヌがGDVを発症する確率を排除する方法はありません。
私の研究では、ヒルズ社のサイエンスダイエット・メンテナンスとGDVとの間には関連性または因果関係は認められませんでした。イヌのGDVに関する10年間以上にわたる私の研究、またイヌの疾病に関する30年以上の経験・研究からして、私は、大豆がGDVの原因であるとも何らかの形で関与しているとも考えていません。
ヒルズ社の成犬用サイエンスダイエット・メンテナンスに含有される大豆がGDV発症の原因であるとする主張は、科学的証拠、実験または疫学的調査によって支持されるものではありません。
以上のとおり相違ありません。
2005年11月25日
Lawrence T. Glickman, DVM
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