2015/10/29
犬の急性胃拡張、ドライドッグフードと因果関係
2006年1月4日
宣 言 ハーバート・J・ヴァンクライニンゲン博士
私は本日、犬の急性胃拡張(AGD)に関するいくつかの問題を論評するために、これを書きます。まず私の信用証明たる経歴を述べさせていただき、それから、1)AGDにおける胃中ガスの性質と発生源 2)因果関係における常用飼料の役割について述べます。
私はコーネル大学において獣医学博士と獣医病理学博士の学位を取得しました。また後にブラウン大学で医学博士号を取得しました。私はアメリカン・カレッジ・オブ・ヴェテリナリー・パソロジスツ(ACVP)に認証されています。私は43年間獣医病理学者として仕事をしてきました。私は現在獣医病理学者であり、コネチカット大学の病理生物学部・獣医科学部の教授兼学部長であり、コネチカット獣医学診断研究所の所長です。当該研究所では昨年1,400件の動物検死解剖を含む121,000件のテストを実施しました。また私は、現在4名の研修医を訓練している病理学研修プログラムの監督者でもあります。この研修医達は、研修終了後、ACVP委員会の認証を得るための試験に臨むことになります。これは獣医学における最古で最難関の試験です。前回この試験を受験した我々の研修医6名のうち、初回試験で5名が全4分野に合格しました。残りの1名は4分野中2分野に合格し、2006年に再度受験する予定です。私がこのような詳細をお伝えするのは、この研究所で行われている病理学の質を証明するためです。
私は40年以上にわたり、胃腸病理学を専門に研究しています。これまで胃腸管・道の病気に関し、100以上の論文を発表しました。長年にわたる研究の資金は、コネチカット州の犬の研究のための税金、アイリッシュセッター基金、その他連邦、州、自治体の公的機関からのものです。これまで一度もドッグフード会社の資金を得て研究を行ったことはなく、またドッグフード会社の顧問として働いたこともありません。私は、犬のAGDにおいて生じる解剖学的変化を明示したその本人です。私が自分で作成した記述と写真及びコネチカット大学保健センターのリンダ・テニュカス(Linda Tenukas)が私のために作成した例証は、双璧をなす獣医病理学教科書のうちの一つである「トンプソンの特別獣医病理学」(Thompson's Special Veterinary Pathology)に記載されています。AGDが拡張捻転の病気であり、それまで言われていたような単なる捻転なのではないということを証明したのは、私の研究でした。
私自らがAGDで死亡した犬の一連の検死(33件)を行いました。そして胃の泡立つ内容物がガスを継続的に発生させていることに気付いたのは、これらの検死においてでした。私が解剖をし終えるまでの間、胃の内容物を4オンス入りのプラスチック容器の中に入れておきました。泡立つ内容物から発生するガスのせいで容器は膨れ、カバーが飛びました。それは、犬が空気を飲み込んだことで絶対に起こり得なかった現象なのです。ここで得た情報は1974年に発表されました。記述は「プラスチック容器に入れられた内容物が膨張し容器の蓋を飛ばしたように、継続的な発酵がしばしば認められた」というものです。その論文の中で、私はまた、AGDに罹った犬の緊急治療法を明記しました。それは犬の身体に前方から両腕で組みつくようにし、垂直に犬の身体を揺さぶって捻転を減じさせるという方法で、実際に採用されて治療に成功しています(つい最近2004年9月にも、ニューイングランド獣医学会で私が発表を行っているときに成功例が報告されました)。それよりも前、コネチカット大学のジョージ・ホイットニー博士(Dr.George Whitney)は、同様の結果を報告しており、さらに彼はAGDに罹った犬の腹部から針でガスを抜き、そのガスに点火しました。つまりその犬を殺したガスが、飲み込まれた空気ではないという事実を証明したのです。
私は最初の研究の中で、AGDに罹った犬に含有される二酸化炭素は、死後6時間から24時間の間に採取されたサンプルにおいて28,5%から89%までばらつきがあったことを示し、一方死後5時間から24時間の対照犬のサンプルでは二酸化炭素は0,8%から1,1%であったことを示しました。当時は水素やメタンを測定する手段がありませんでした。それでその後の研究で、ロゴルスキー(Rogolsky)と私は、死後0分から120分の更なるサンプルを採取し、二酸化炭素の含有量が15,4%、33,7%、51,2%、52,7%、56,4%、60,2%、であり、一方死後5分の正常な犬からのサンプルでは0,6%、0,9%、0,9%であることがわかりました。また水素値は0,1%、0,9%、1,8%、1,9%、4,0%、5,0%であり、一方対照犬のサンプルでは0%から0,2%でした。ロゴルスキーと私が報告した上記6頭の犬のうち1頭はAGD発症中の犬で、外科手術の前、死亡前の犬でした。この犬の場合、二酸化炭素は60,2%、水素は1,8%でした。AGDにに罹ったすべの犬から採取したガスは可燃性でした。このことはロゴルスキーとヴァンクライニンゲンによる1978年の論文で発表されました。同研究において、発酵により生じる乳酸値が、AGDに罹った犬の方がずっと高いことがわかりました。対照犬の平均乳酸値は7,1±5,9mM/Lであったのに対し、AGDの犬の乳酸値は40、48、62,4、107,2、76.8、83.2、98.4、32、8、62.4、117.6、92、0、12、143.4でした。乳酸は細菌の発酵によって生じるのであり、大気を飲み込むことによって生じさせることはできませんし、唾液と胃酸の酸-塩基反応によっても生じません。
ガスを発生する発酵の速度も測定しました。反応は、栓に注射器の針を刺したガラス製のフラスコ内で起こりました。「AGDに罹った動物の胃から採取した細菌が培養されたサンプルの発酵速度は、正常な動物からのサンプルの場合と比較して約3倍の速さ」でした。それと平行する研究で、ガスを発生させるクロストリジウムを胃の中にもっている犬の割合がどのくらいかを調べるために、我々は正常な100頭の犬をサンプルにし、72%からクロストリジウムを分離しました。胃中クリストリジウムをもつ犬が調査時100%であると示した研究者もいます(回収率は嫌気性生物の状態と培地により異なります)。
私の最も新しい研究は、胃機能に対する常用飼料の影響を比較するものでした。同腹で生後12週のアイリッシュセッターを4つのグループに分け、2頭に市販のドライドッグフード(ピュリナ製品)を日に1回ずつ、2頭に骨付き肉を日に1回ずつ、2頭に市販のドライドッグフードを日に3回ずつ、2頭に骨付き肉を3回ずつ与えました。4グループすべて他の餌は一切与えず寝藁無しでした。6か月経過後、日に1回市販のドライドッグフードを与えられた1頭が食べて数時間後にAGDを発症しました。その犬を治療後、再び同じ条件下におきました。すると数日後にまた腹部が膨張し、さらにもう一度膨張して、ついに死にました。その他の犬はAGDを発症することなく2年経過し、その後検死されました。日に1回市販のドライドッグフードを与えられていた犬の胃は、その他の犬の胃と比べ大きくなっていました。前者の犬の胃は(体重に対する割合で)最も重く最も大きな胃となっていました。1987年の論文で私は「解剖の結果、市販のドライドッグフードを日に1回与えられていた犬は、他の3グループと比べ胃が拡張していた」と発表しました。常用飼料を比較するこの研究において、AGDは大豆と穀物をベースにした飼料を日に1回与えられたグループに発症し、このとき変数はただ飼料だけでした。
被告側証人が提示した議論で言及されている研究にケイウッド(Caywood)の研究があります。彼は、6事例のガスを分析し、AGDにおけるガスは飲み込まれた空気に違いないと主張しています。ケイウッドの研究について論評させて下さい。
1)ケイウッドは胃から採るガスを収集し貯蔵するためにプラスチックの注射器を使用しました。しかしプラスチックには透過性がありガスを発散させてしまいます。(「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」1971年第3号512~516頁に記載されたスコット(Scott)らによる論文「プラスチック注射器及びガラス注射器に貯蔵された血液ならびに水サンプルからの酸素漏出」参照)。(我々の研究では止コック付のガラス製フラスコとガラス製のヴァキュティナーを使用しました。)このようにケイウッドの研究では、大気との平衡がいくらか起こった可能性があるのです。つまり実際の二酸化炭素値及び水素値は、報告されているより大きかった可能性があるのです。彼らは注射器のガス透過性テストを実施せず、またガスはその中で8時間も放置されていたのです。ロゴルスキーの研究には「(略)濃度のわかっている二酸化炭素、水素、窒素、メタンの混合物が標準化のために使用された」という記述がありますが、ケイウッドの研究にはそのような標準化の報告もなければ、ガスのサンプリングに必要な積極的制御の報告もありません。
2)ケイウッドらは陰性対照全く使っていません。すなわちAGDに罹っていない犬の胃からガスのサンプルを採っていないのです。我々はさまざまな研究において50頭から100頭もの対照を使用しました。
3)ケイウッドらは陽性対照を全く使っていません。すなわち二酸化炭素、水素あるいはメタンを予め犬の胃に加え、後にサンプルを採取しテストするということをしていないのです。
4)ケイウッドらは「我々のデータは飲み込まれた空気が犬の胃拡張捻転症候群におけるガスの主たる源であるという概念を支持するものである。この推定は胃中ガス濃度と大気の類似性に基づくものである」と結論づけています。しかしその二者は類似のものではなかったのです。彼らは「(略)数頭において酸素及び二酸化炭素は大いに異なる」と言います。ここに彼らが示した数値があります。表2によると、大気中の二酸化炭素は1,0%ですが、AGDに罹った7頭の犬では5,8%、24,0%、5,1%、7,0%、14,0%、1,0%、13,6%、です。もしこの数値が「胃中ガスの主たる源が飲み込まれた空気であるという概念を支持するものである」のなら、なぜ彼らは、二酸化炭素の上昇が胃中の化学反応のせいで起こった可能性があると論ずる必要があると感じたのでしょうか。「化学反応により二酸化炭素が形成されて測定値の二酸化炭素濃度にになった可能性がある」と言うのですが、もし収集したガスが飲み込まれた空気だと彼らが信じるなら、なぜ二酸化炭素のことばかりなのでしょうか。水素はどうなのでしょう?表2によれば、大気中の水素は0,0009%です。しかしテストされた犬には0,003%、0,05%、0,008%、0,07%、0,029%、0,015%ありました。それは大気中と比べて28,9倍もの量です。ひとたび水素値が認識されれば、犬が呑気症で死に至る、あるいは唾液の重炭酸塩と胃酸の混合によりガスが生じているのだというケイウッドの結論を容認することは不可能です。ケイウッドの研究は欠陥のある研究でしたが、彼が出した結論はさらに悪いものでした。もし我々がやったようにガラス製の収集器具を用いていたなら、彼は我々が報告した二酸化炭素と水素値すなわち44,9%が二酸化炭素で2,28%が水素という値にもっと近い数値を得たことでしょう。
我々は胃中ガスが発酵により生じたものであることを証明してきたと信じます。飲み込まれた空気がAGDや死の原因であると証明した者はいません。1981年にシュタイン(Stein)らはマーモセットが抗生物質を投与された後5週かにわたりAGDに罹って死亡したことを報告しました。そのマーモセットは犬の餌に類似した餌、すなわち大豆と穀物をベースにしたものを与えられていました。抗生物質がマーモセットの胃中の拮抗的微生物を除去し、そのため、通常の生態的役割を超えるまでにクリストリジウムが増殖したものと私は考えています。空気を飲み込むことがそのような死の要因になったとは全く考えられません。
人間も馬も空気を飲み込み、ときには繰り返し、また大量に飲みこみます。空気を飲み込むことで死んだという報告がなされたことは一度もありません。AGDは、空気を飲み込む(さく癖動物として知られる)馬には発症しませんが、その代り炭水化物が豊富で大豆を含有する飼料を食べ過ぎる動物に起こるのです。
穀物と大豆を含有する市販の飼料を食べた後でサル、マーモセット、ウサギや犬はAGDを発症します。製造工程で穀物や大豆を細かく挽き、加熱することでそれらを「消化しやすくする」のですが、その結果、それを与えられた動物にとって消化が容易にになると同時に、動物の胃中にに生きている細菌がより発酵しやすくなるのです。穀物をベースにし大豆を含んだドライフード製品は水と混ざり、すぐれた細菌学的培地になります。クロストリジウムとともに培養し体温に保てばガスが発生することは実験室でいつでも認識できます。大豆の炭水化物はわずかでも特に発酵性があります。
AGDで死んだ犬に与えられた常用飼料が死亡の原因だったのでしょうか?それを知る簡単な方法があります。数頭の犬にサイエンス・ダイエットを与え、別の数頭には大豆を含まない別の製品を与えて下さい。あるいは同じ犬舎の犬にサイエンス・ダイエットを与え、その後サイエンス・ダイエット以外の大豆を含まない飼料を与えるのです。これは食餌と薬物研究においてクロスオーバーと呼ばれる方法です。しかしこれはすでになされているのです。それを繰り返して下さい。逆にクロスオーバーをして下さい。6ヶ月間サイエンス・ダイエット以外の大豆を含まない製品を与え、その後サイエンス・ダイエットに再び切り替えてください。もう結果はお判りだと思います。
もし誰かがベビーフードを買って家に持ち帰り、それを子供に食べさせたら子供の腹部が膨張して死亡したとします。そしてまた一人、また一人と犠牲者が出たとすれば、その製品は直ちに店頭から撤去され、調査が開始されるでしょう。死んだのが犬に過ぎないから、そのような措置はこれまで執られてこなかったのです。そのような経験をさせた製品は「注意。製造者の勧め通りに犬に食べさせたら腹部が膨張して死亡する場合があります。」とラベルに表記するべきでしょう。
上述の事項が真実で正しいものであることを宣言します。
Herbert J. Van Kruiningen, DVM, PhD, MD
Department Head and Director, CVMDL