ドッグフード裁判における学者の陳述、GDV空気嚥下説 2

                          陳述書

1) 経歴
私は、現在獣医臨床栄養学の教育を推進する非営利組織であるマーク・モーリス研究所の執行役員を務めており、獣医科系の学生を対象に教鞭をとっています。マーク・モーリス研究所は、日本の16の獣医科系大学(北海道大学、帯広畜産大学、岩手大学、東京大学、東京農工大学、岐阜大学、大阪府立大学、鳥取大学、山口大学、宮崎大学、鹿児島大学、酪農学園大学、北里大学、麻布大学、日本大学および日本獣医畜産大学)を含め世界中における約40以上の獣医科系大学でペットのための栄養に関する講義を行ってきました。

また、私は、カンザス州立大学(米国カンザス州マンハッタン)獣医学部獣医臨床科学の非常勤講師を兼務しています。さらに、東京大学農学部獣医学課程の非常勤講師も務めており、2004年には臨床栄養学課程を担当したした。2006年にも再度教鞭をとる予定です。

また、現在ヒルズ・ペット・ニュートリション社(以下、「ヒルズ社」といいます)で、専門教育課程の部長を務めており、開業獣医師を対象に生涯教育を行っています。私は、ヒルズ社の臨床試験におけるコンテンツ・エキスパートであり、研究データを検証したり、私の専門分野に関連する事項に関し提言をしたりしています。ヒルズ社は、ドッグフードである「サイエンスダイエット・アダルト・メンテナンス」を含む、日本ヒルズ・コルゲート株式会社が販売するペットフードを開発し、製造しています。

私は、ノースカロライナ州立大学(米国ノースカロライナ州ローリー)獣医学部で動物学(学士)を専攻し、オハイオ州立大学(米国オハイオ州コロンバス)で臨床科学(胃腸病学)の理学修士号を取得しました。また、オーバーン大学(米国アラバマ州オーバーン)において獣医学の博士号を取得しました。私は、獣医心臓外科、大型動物内科、小動物内科、神経学および腫瘍学の分野における専門医を認定するための米国獣医師会の認可を受けた組織であるACVIM(米国獣医内科学会)が認定した内科専門医です。私は、ACVIMの資格認定委員会の元会員で、小動物内科の専門医としての認定を受けています。なお、ここにいう小動物には、大型および超大型犬を含むあらゆる種類の犬が含まれます。内科学会に加えて、消化器病学および臨床栄養学にも関心を持って研究しています。

2) 「小動物の臨床栄養学」について
マーク・モーリス研究所は「小動物の臨床栄養学」(第4版)というタイトルのテキストブックを発行しており、同書の日本語版の一部を原告が甲第39号証として証拠提出しています。私は同書の著者の一人であり、726頁から810頁(英語オリジナル版の頁数)の「胃腸疾患および膵外分泌疾患」その他の章を担当しました。これは、日本語版では827頁から921頁に相当します。以下では、頁数を示すときは日本語版におけるものを示すことにします。

この章は、胃腸系統ないし膵臓の中でもどの部分にかかわる疾患かということにより疾患を区別して論じています。したがって、この章の最初の頁にあるとおり、この章は、さらに下記の節に分かれています。口腔疾患(833頁から835頁)、咽喉疾患および食道疾患(835頁から841頁)、胃の疾患(841頁から854頁)、小腸の疾患(854頁から878頁)、大腸の疾患(878頁から892頁)、膵臓の機能不全(892頁から910頁)、症例(901頁から921頁)。

胃拡張(GD)とは、胃が気体、食物ないし液体の交じり合ったもので拡張した状態を言います。胃拡張・胃捻転(GDV)では、胃が拡張・稔転して、胃の内容物は閉塞し、胃、脾臓、膵臓への血流が阻害されます。GDVでは心臓の血液の環流も阻害されるため、イヌがショック状態に陥ることがあります。胃拡張もGDVも胃の病気であり、よって、本書「胃の疾患」の節の中の847頁から850頁において記述されています。

これに対し、原告が甲第39号証の一部として引用している890頁ないし892頁は、「大腸の疾患」の節の「鼓腸(flatulence)」の項からの引用です。「鼓腸」とは、正式な定義では、消化管に過剰なガスが存在する状態を指し、したがって、胃中に嚥下された空気が溜まっている状態をも含む概念です。それにもかかわらず、「鼓腸」は、一般的に医学用語としても非専門家の間でも腸にガスが溜まった状態を指して使われており、胃にガスが溜まった状態については用いられていません。本書で著者が「鼓腸」という場合は、大腸にガスが溜まった状態を指しているのであり、胃にガスが溜まった状態のことは指していません。

888頁に説明されているとおり、鼓腸(正式な定義)においては、オナラが出る、げっぷが出る、お腹が鳴る(腹鳴)などの症状が見られます。しかしながら、さらに同頁に説明されているとおり、イヌの飼い主にとっては、過剰なオナラが慢性の不快な問題であり、よって獣医師に対し鼓腸に関するアドバイスが求められることになります。オナラの原因は大腸における過剰なガスであるため、鼓腸に関する記述は本書888頁から892頁の「大腸の疾患」の節の中で論じられているのです。

「鼓腸」という疾患はGDVとは異なります。GDVとは違って、鼓腸自体はイヌの健康にとって危険なものではなく、ただ飼い主にとっては不快であるというだけです。「小動物の臨床栄養学」における「鼓腸」についての記述はGDVについての記述ではないのです。すなわち、大豆がGDVに対する危険要因だとするものではありません。反対に、849頁に記載されているように、大豆を含有する食物は、以前、GDVの危険要因ではないかと疑われたこともありましたが、最近の研究では、実際には大豆を含む食物がイヌのGDVの危険性を高めるものではなかったということが証明されています。大豆を含む食物がGDVリスクを高めるものではないということは、現在では獣医学の消化器官専門家の間で定説となっています。

3) 鼓腸ないしGDVにおけるガスの産生
本書「鼓腸」に節の中に、ガスが産生されるいくつかの原因について示した図22-20があります(891頁参照)。図22-20の下の注記には、消化吸収されなかった食物が大腸を通る過程で細菌(バクテリア)により発酵されることを示しています。この発酵過程は大腸でガスを発生させるのです。消化しにくい成分を含む食物は大腸におけるガスの産生を高め、よって鼓腸を引き起こす可能性があるのです。

GDVは上述したように胃の拡張に関する疾患です。図22-20に示されるように、発酵により生じるガスではなく、嚥下された空気が胃中における過剰なガスの源です。事実、胃中に存在する細菌は極めて少ないために、図22-20では胃には細菌の存在が示されていません。図22-20では、細菌の存在は大腸の部分にのみ図示されています。胃酸の産生度が極めて高いために、胃中の細菌の総数は極めて少ないのです。胃中では細菌が少ないために、健康なイヌにおいては、未消化の食べ物は胃中で発酵するより前に胃から排出されて腸に達してしまいます。消化しにくい食物が胃中で過剰なガスを産生することはありません。ガスが産生されるのは大腸においてであり、よって、GDVとは関係ありません。GDVでは胃中の気体により胃が拡張し捻転しますが、これを引き起こすのは嚥下した空気です。イヌが食べたドッグフードの成分は嚥下した空気の量には何らの影響も与えません。

4) 大豆の危険性

原告は、甲第57号証として、「AZ Professional Dog Food 」というタイトルの書面を証拠提出しています。同書面には、(1)大豆には、トリプシン・インヒビターという大腸における酵素の働きを妨げる物質が含まれており、消化不良を引き起こす原因となる、および、(2)ドッグフードの製造工程では食物は30秒しか加熱されず、大豆に含有されるトリプシン・インヒビターは中和されない、との記載があります。

大豆に含有されるトリプシン・インヒビターがドッグフードの瀬尾象工程においては中和されないというのは事実ではありません。ウォルサムペット栄養総合研究所著の「犬とネコの栄養学 第2版」に記載されているとおり、トリプシン・インヒビターは熱に弱く、ペットフードの製造工程における加熱によりその大部分が除去されます。ヒルズ社の製造技術者に確認したところ、ヒルズ社のドライドッグフード製品は、製造工程のさまざまな段階において、華氏170度から300度(摂氏約77度から149度)の高熱で30分ないし45分間加熱されています。この過熱と調理時間は大豆に含まれるトリプシン・インヒビターを中和するのに十分なものです。

サイエンスダイエット・アダルト・メンテナンスを含む、大豆を含有するヒルズ社が販売するドッグフード製品はいずれも臨床試験を行いAAFCOの基準をパスしなければなりません。この試験をパスしているということは、すなわち、サイエンスダイエット・アダルト・メンテナンスを含むこれらの製品において、生の大豆に含まれているトリプシン・インヒビターが製造工程において消化機能に何らの影響のないレベルまで除去されていることを示すものです。

いずれにせよ、トリプシン・インヒビターが小腸での消化や大腸での発酵を阻害することにより生じる消化不良の問題とGDVとは関係がなく、また、これがイヌのGDV発症リスクを高めるものではありません。イヌに大豆を与えることによりGDVのリスクが高まることを証明するいかなる証拠も研究も存在しません。私のイヌの消化器官における生理学的なガス産生のプロセスに関する知見からしても、また、GDVに関する現在の学術論文からしても、イヌのGDV発症とイヌに対し大豆を与えることは何らの関連性もありません。

5) GDVリスクと特定のブランドのドッグフードの関連性の不存在

私が認識している限り、GDVのリスクと関係があると科学的に証明されている食物と関連する要因は食餌の量のみです。研究によれば、一日に1度だけ、量の多い食餌を与えられているイヌはGDVを発症する危険性が高いことが証明されています。私の知る限り、いかなるブランドのドッグフードを与えているかによりGDVのリスクが異なるとの結果を示した科学的ないし学術的な研究はありません。

私が知るGDVの学術文献からも、他の獣医学者との意見交換からも、また私自身の獣医胃腸学者としての経験からしても、サイエンスダイエット・アダルト・メンテナンスもしくはその他の大豆を含有するヒルズ社の製品に、他のブランドのドッグフードに比して高いGDV発症リスクがあるとは考えられません。GDV発症の危険性がどのブランドのドッグフードを与えているかによって影響されることはありません。

以上のとおり間違いありません。


 2005年10月11日

Deborah J. Davenport, DVM




ドッグフード裁判における学者の陳述、AGD細菌発酵説







                

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ドライドッグフードと鼓腸症との関連性を勉強しています。

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