イヌにおける豆類基質と腸内細菌が関与するガス産生

GASTROENTEROLOGY
Copyright Ⓒ 1968 by The Williams & Wilkins
Vol.55,No.4 printed in U.S.A.


RELATIONSHIP OF BEAN SUBSTRATES AND CERTAIN INTESTINAL
BACTERIA TO GAS PRODUCTION IN THE DOG


エドムンド A. リチャーズ Ph.D., F.R.ステゲルダ Ph.D., A.ムラタ M.D.
イリノイ大学生理学および生物物理学部門、アーバナ、イリノイ


原稿受付 1968年1月5日、原稿受理 1968年3月29日
別刷請求先:F.R.ステゲルダ博士
     イリノイ61801、アーバナ、イリノイ大学ブルリルホール524 生理学部門
本研究の一部は米国農業局西部開発部門の補助(参照番号6963-71)による。またイリノイ大学微生物学部門のフランシスM.クラーク教授には本研究の実験手法の開発に多くの有益な示唆を頂いたことを感謝する。
リチャーズ博士の所属先:ベイラー医科大学生理学部門、ヒューストン、テキサス77000


(前文省略)
特定の食物の存在下において消化管内で産生されるガスを質・量ともに顕著に変える微生物が存在する可能性についてはステゲルダとディミック(Steggerda&Dimmick)が示唆している。彼らはヒトにおいて豆類の食物の種類と量を変えた場合に放屁の量と組成がどのように変わるかを調べた。これによると、大量の豚肉と豆類を摂取した場合、回収した放屁ガス中の二酸化炭素濃度が対照のガス非産生食物の場合の11%から51%に増加した。別の実験では、白インゲンのホモジネートを麻酔イヌの生体における十二指腸、空腸、回腸および大腸の各区域に注入し、各区域において高濃度の二酸化炭素および水素が産生されることを記録している。イヌにおける高濃度の水素産生は腸内細菌叢にはメタン生成生物が存在しないためとされている。これらは抗生物質と静菌剤の混合投与で動物を前処置することにより劇的に抑制されることが観察されている。

これらの実験の結果から、豆製品が摂取された場合の鼓腸ガス産生機序としてつぎの2点が推論される。(1)産生ガス量と、抗生物質と静菌剤による微生物の生長抑制との相関から、おそらく細菌が関与している。(2)二酸化炭素産生が高濃度であることから、関与する細菌種はクロストリジウム類であることが示唆される。これはグラム陽性、芽胞形生成の嫌気性菌であり、ヒトおよび動物の小腸および大腸に常在する。

本研究の目的は、上記の推論の論理的正当性の間接的な証明である。先行研究において、ガス産生性の食物摂取によりヒトとイヌの小腸と大腸で産生されるガスの二酸化炭素と水素の濃度が高くなることが観察されているが、これが、小腸と大腸から分離した嫌気性クロストリジウム菌を生体と同一の環境下で試験管内培養した場合にも再現することを示す。また生体内、試験管内のいずれの場合にも、この嫌気性菌の個体数が豆製品の存在下で増殖すること、抗生物質や静菌剤で抑制されることも示す。

材料と方法
実験動物に雌雑種イヌを用い、2週間前に駆虫し、実験前の24時間は絶食させた。ペントバルビタールナトリウム(30mg/㎏)で麻酔し、十二指腸・空腸・回腸の各50㎝および大腸40㎝の区域を準備した。各区域の菌の培養には、まずゼフィランクロリド(4:750)で表面を洗浄し、各区域の上位端付近の腸間膜反対側縁を1㎝切り、ここから滅菌綿棒を挿入して試料を採取した(図1、第1段階)。これらを滅菌した嫌気性チオグリコール酸塩培地に移し、80℃で20分間保って休止期の好気性および嫌気性菌類を殺菌した(図1、第2段階)。これらの管を37℃で水槽に移し、24時間インキュベートした(図1、第3段階)。試験管内におけるガス産生基質存在条件の嫌気性培養実験として、30ccのシリンジ1組を注油潤滑化してオートクレープ滅菌し、これらの半分を、15ccの豚肉と豆、もしくは大豆混合率が高いドッグフードのホモジネートで満たした(図1、第4段階)。これらは市販の豚肉と豆、もしくはドッグフードの1ポンドの缶に脱イオン水を100cc加えてホモジネートして調整した。結果の表記にあたっては、豚肉と豆のホモジネートを「白インゲンのホモジネート」、市販ドッグフードのホモジネートを「大豆のホモジネート」とする。

別個のシリンジに取ったこれらの基質にチオグリセレート嫌気性細菌培養保存液をそれぞれ5cc加え、針の先端に滅菌セラムストッパーをかけた。シリンジを両手の手のひらで回転させて内容物を混合し、吸引口を上に向けて37℃の水槽に浸した(図1、第5段階)。各基質のガス産生開始時刻を記し、ガス産生量を1時間毎に4時間計測した。ガス試料の採取は滅菌した20ゲージの針を付けた20ccの注油潤滑シリンジを用いてセラムストッパーを介して行い、Fisher-Hamilton Gas Partitioner(ガスクロマトグラフィー)で二酸化炭素、酸素、窒素および水素量を分析した(図1、第6段階)。

        「ガス発生におけるイヌ科微生物細菌叢の役割を調べる方法」
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図1.嫌気性細菌の単離と豆ホモジネート存在下におけるガス産生能を試験するための6段階。

(中略)

結果
腸の各区域において白インゲンの基質に3時間接触させた嫌気性(終期)培養の試験管内ガス産生を比べて示す。腸区域の初期培養試料のガス産生は終期に比べてかなり小さい。初期培養試料の1時間あたりのガス産生は、十二指腸1.8cc、空腸2.0cc、回腸4.3ccおよび大腸11.9ccであった。嫌気性細菌が白インゲンのホモジネートで3時間生育した後の初期培養試料では、十二指腸9.2cc、空腸4.5cc、回腸9.7ccおよび大腸10.8ccであった。ガス組成は二酸化炭素40%、水素53%、窒素6%、酸素2%であり、これは区域によらず同様で、また白インゲンのホモジネートの存在下3時間の前後でも変わらなかった。(中略)

大豆原料の混合率の高い市販のドッグフードにおける嫌気性菌の反応を示す。大豆のホモジネートに3時間接触させた後に採取し、試験管内の滅菌培地で培養した細菌培養試料のガス産生能は各区域とも非常に高かった。発生ガス体積は1時間平均で十二指腸12.7cc、空腸13.5cc、回腸10.2ccおよび大腸14.0ccであった。大豆のホモジネートのほうが白インゲンのホモジネートよりもガス産生量が高かった。(中略)

考察
豆類の食餌が消化管内に導入されると、産生ガス量が増加し高濃度の二酸化炭素および水素が発生する。本研究で得られた結果は、これらが豆の何らかの成分と、小腸および大腸内に常在する嫌気性菌類との相互作用によるものとする仮説を支持するものである。この反応が豆の炭水化物に関連しているのではないかという可能性は、1924年アンダーソン(Anderson)によって既に示唆されており、さまざまな炭水化物の培地で嫌気培養する主として二酸化炭素と水素が発生し、窒素や酸素は少ないことが実験で示された。

この可能性はステゲルダ(Steggerda)らの観察によって支持されており、ヒト被験者に大豆の成分を分画して比較摂取させると、脂質やタンパク質、複合多糖類に比べ、低分子量の炭水化物の場合に最も大きなガス発生量が見られた。このガス産生に寄与が考えられる小腸・大腸の嫌気性細菌には多くの種類があるが、培養条件と熱処理、およびガス産生の特徴(質および量)を考慮すると、相当する菌種はグラム陽性のクロストリジウム・パーフリンジエンス型と同一か、もしくは極めて近縁の種であるものと思われる。予備的に行った実験では、C.パーフリンジエンスを大豆のホモジネートに接触させると、上述の実験で観察されたものと同様の量と組成のガスが産生された。

ページ(Page)らは、グルコースとC.パーフリンジェンスのさまざまな反応において、多くの酵素系を挙げながら、特にエムデンーマイヤーホフーパルナス経路に類似した解糖酵素系に注目している。この反応に小腸内の微生物が関与することは、この反応が抗生物質と静菌剤で抑制されることからも支持される。(中略)

KakadeとBorchersは非加熱の白インゲンの食餌を与えたラットに対するプロカインペニシリンとストレプトマイシンの効果について報告している。彼らは一定の条件下でガス産生が減少することを見出した。クロストリジウム嫌気性細菌が通常のイヌ消化管に常在することはBornsideとCohnによって示されており、クロストリジウム菌数は調査したイヌの85%~90%に存在し、その菌数の分布は小腸もしくは大腸の内容物1gあたり10²~10⁸の広範囲に渡ると報告している。これらの研究者がイヌの胃、回腸・結腸から分離したC.パーフリンジェンスはグラム陽性の芽胞形成性菌種であった。(中略)

本研究は、豆類の存在下において腸内ガスの形成に関与する特定の腸内嫌気性細菌の存在を示唆するものである。この嫌気性細菌の振る舞いは、ヒトおよびイヌの消化管に常住する、グラム陽性、芽胞形成性のクロストリジウム・パーフリンジェンス類に酷似する。薬剤への反応は生体内と試験管内でよく似ており、試験管内の観察結果は生体内の小腸および大腸の環境下のものを再現した。さらに、豆類の注入に続いて起こる嫌気性芽胞形成性細菌の増殖は、試験管内培養とガス産生にも反映されている。この研究で用いた方法は容易であり、ガスを産生する食餌画分のスクリーニングにも役立つ。

要約
1.生体内および試験管内の実験により、小腸および大腸内のある種の嫌気性細菌が白インゲンおよび大豆の製品の存在下においてガス産生と密接な関連があることが示された。

2.試験管内で産生されたガスの組成は二酸化炭素と水素ガスの割合が高く、このガスの産生がクロストリジウム型の細菌の発酵によるものとする仮説を支持する。

3.豆のホモジネート存在下におけるガス産生は抗生物質および静菌剤により完全に抑制される。

4.ガス産生の豆製品を小腸系蹄内に注入すると、粘膜試料に出現する嫌気性芽胞形成性の菌数が顕著に増加する。

5.本研究で用いた方法は、食餌中のガス生成因子の検出に効果的に用いることができる。








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急性胃拡張のイヌの剖検

Acute Gastric Dilatation:A Review of Comparative
Aspects,by Species,and a Study in Dogs
and Monkeys


(前文省略)

材料および方法
1966年から1973年2月まで、AGDで死亡したイヌの遺体をコネチカットの獣医師に依頼した。同期間中に、自然発症のAGDを有するアカゲザルがコネチカット大学心理学部サルコロニーから転送された。各品種および年齢の健康なイヌは、共同犬舎、野犬留置場、獣医師および業者から入手した。

剖検
AGDで死亡したイヌ33頭およびサル14頭は死後数時間以内に大学に搬送され、詳細な剖検、写真撮影および胃内容物のサンプリングを行った。イヌ14頭およびサル16頭のすべての主要臓器および内分泌臓器の組織片は、10%中性ホルマリンに固定し、パラフィンに包埋後、6μで薄切し、ヘマトキシリンおよびエオシン染色(または適宜、特殊染色)を施して顕微鏡検査を行った。

剖検所見
自然発症のAGDを有する動物47頭について検討した。33頭はイヌで、14頭はサルであった。

バセットハウンドを除くイヌはすべて大型犬であった(セントバーナード、グレートデン、コリー、ゴードンセッター、アイリッシュウルフハウンド、ジャーマンシェパード、ボクサー、ワイマラナー、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー、大型雑種)。罹患したサルはすべてアカゲザルであった。罹患したイヌの年齢は9カ月~15歳の範囲であった。サルは青年期~成年期であった。AGDの概往は、イヌ33例のうち4例で報告された。

47例のいずれの病歴においては、食後にAGDが認められた。摂食から発症までの間隔は、イヌとサルのいずれも1~15時間の範囲であった。水は、大部分のイヌとすべてのサルに自由に摂取させた。食餌前後の運動は、イヌではさまざまで、個体別に収容したサルでは制限した。

AGDで死亡した動物は、いくつかの特徴的な外部所見が認められた。腹部は膨満して鼓脹性となり、目は沈下し、結膜は濃い青みがかった暗赤色で、口は乾燥し、舌は歯間に噛み締められていることが多かった。唾液が口の周りを覆う動物もいれば、顔面の外部打撲傷あるいは汚れから、激しい苦悶が示唆されるものもあった。

すべての罹患動物の腹腔は、著しく膨満した胃によって占められていた。イヌの胃はバスケットボールの大きさであり、サルのものはその直径の1/3であった。拡張した胃の回転と変位により、以下の2つの基本的な解剖学的変化のいずれかを生じていた。



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胃;イヌ、急性胃拡張。胃は摂食物とガスで膨張しており、赤色から紫色である。他の腹部臓器の位置を著しく変位させている。肺の虚脱に注意。



1)合併症を伴わないAGDのイヌおよびサルでは、拡張した胃が認められ、これはその大湾側で大きく伸張し、腹腔内の通常の左ないし右斜位から頭尾縦位に移動していた(図1)。言い換えると、胃は膨満するにつれて、腹腔の長軸を埋めるようにわずかに移動した。脾臓は胃の左側で通常の位置を占めており、食道の遠位部はねじれてなく、また十二指腸もほとんど変位していなかった。


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図1-イヌの急性胃拡張の図示。死後の写真から描かれたこの図は、生きた動物の膨張した胃の位置を示す。


2)捻転を合併したAGDのイヌでは、拡張した胃が認められ、これはその大湾側で大きく伸張し、その腸間膜軸で捻転していた。腹背方向から見ると、胃は右回りに180°~360°回転していた(図2)。

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図2-胃;イヌ、急性胃拡張。死後の写真から描かれたこの図は、腸軸捻で起こる360°の回転を示している。矢印は回転方向を示す。脾臓は折れ曲がり、横隔膜にぶつかっている右の頭蓋腹部にある。食道遠位部の閉塞に注意すること。


捻転を合併したAGDのイヌ23頭では、19頭の胃は360°、3頭は180°、1頭は270°、回転していた。脾臓は血液で著しくうっ血し、23症例のいずれも異常な位置にあり、回転した胃によって引っ張られていた。一部の例では、脾臓が胃の左側からその背尾位に移動していた。一方では、胃に伴って約90°~180°、脾臓がその長軸上でねじれ、脾臓中央での捻転を起こすか、あるいは脾臓が大網で覆い隠されたものもあった。大部分の例では、脾臓は胃に伴ってほぼ270°移動し、腹腔の左ないし背尾位から右頭位に移動しており、右横隔膜に寄りかかり、その緊張した胃脾間膜によって「V形」に強く曲がっていいた。食道の遠位部はイヌ23頭すべてにおいて閉塞点でねじれ、また十二指腸は横隔膜の中心に隣接した点から始まり、そこでは幽門と食道が絡み合い、拡張した胃の右背面に沿って背尾位方向に走行していた。

胃壁の色は、単純なAGDの通常の桃色ないし黄褐色から、捻転を伴ったAGDの強く充血した濃い暗赤色ないし青色まで多様であった。内容物は、常に粘液や識別可能な食物を含む多量の水っぽい褐色の粥と、相当な量のガスであった。多くの例では、内容物の液相は反芻動物の泡沫性鼓脹と一致する泡沫性を呈した。プラスチック容器に入れた内容物の容積が増し、蓋が押し上げられたように、発酵が継続して認められることが多かった。気相は、胃の相容積の1/2~4/5を占めた。

検査したイヌ25例では、胃内容物のpHは以下の通りであった。すなわち、1頭ではpH3.0、3頭ではpH3.5、1頭ではpH3.8、11頭ではpH4.0、8頭ではpH4.5、1頭ではpH6.0であった。胃粘膜は、暗赤色から濃い黒青色まで多様であり、多量のねばねばした粘液で覆われることが多かった。小さい0.5~1.0㎝径の幽門潰瘍がイヌ4頭で認められた。イヌ1頭には気脹性胃炎が認められた。

ほぼ例外なく、十二指腸としばしば小腸全体正常な直径の1.5~2倍まで拡し、壁が薄くなり、弛緩性で、ガスが充満していた。小腸部分は赤色化し、外観的には膨満した胃による1つの分節の絞扼を反映する変化があった。他の腹部臓器(肝臓、腎臓、膵臓、副腎、結腸および腹腔リンパ節)のうっ血は、症例によってさまざまであった。イヌおよびサルの肺はすべて無気肺で、さまざまな程度のうっ血、水腫および気腫が認められた。胃破裂を伴ったサル1頭には顕著な皮下気腫が認められた。

イヌ14頭およびサル6頭の組織標本の組織学的検査では、すべての症例に共通の基礎疾患または欠乏症あるいはそれらの素因となるものは認められなかった。多くの偶発的な病変、特に高齢動物のものは、各症例で一貫していなかった。

噴門の病変には、サルの1頭での粘膜下リンパ小節の腫大、イヌ2頭での食道腺の囊胞化、イヌ1頭での粘膜、粘膜下組織および節相の単核細胞集簇が含まれていた。既に記述したもの以外の胃底の病変には、イヌ2頭での粘膜下リンパ小節の腫大、イヌ1頭での粘膜および粘膜下組織の単核球浸潤巣、イヌ1頭の小動脈内のミクロフィラリアが含まれていた。

幽門の病変では、イヌ1頭での粘膜下リンパ小節の腫大、サル1頭とイヌ1頭での粘膜下組織の単核球浸潤巣、イヌ1頭での粘膜下組織の異物内芽腫が含まれていた。多くの例では、自己融解により胃粘膜の検査ができなかった。イヌ3頭とサル1頭では、胃の節層間神経叢においてニューロンのリポフスチン沈着が認められた。亜急性食道炎がイヌ1頭に、腸のリポフスチン沈着がイヌ4頭に認められた。

ヒトの腹腔神経節のニューロン病変と糖尿病性消化管機能障害の関係を示唆する所見があることから、AGDのイヌ7頭とサル7頭の腹腔神経節および各年齢の対照イヌ31頭の神経節についてニューロンの異常を検査した。ヘマトキシリンおよびエオシンとともに、ルクソール・ファスト・ブルーHPS染色を用いると、リポフスチンの充満した腹腔ニューロンがイヌ7頭(6歳~15歳)のうち6頭とサル7頭のうち4頭で認められた。同等の顆粒は、対象イヌ15頭(2~10歳)の腹腔ニューロンで認められ、16頭には(2~9歳)には認められなかった。(以下省略)



Van kruiningen HJ, Gregoire K, Meuten DJ. J Am Anim Hosp Assoc 1974; 10:306.
THOMSON'S SPECIAL VETERINARY PATHOLOGY






胃拡張-捻転のイヌの心筋虚血

Myocardial ischemia in dogs with gastric dilatation-volvulus
Journal of the American Veterinary Medical Association
Vol 181, No.4 363-366 1982

W.W. ミューア、DVM, PhD, & S.E.ワイスブロード、VMD, PhD

オハイオ州立大学(43210 オハイオ州コロンバス、1900 コフィー・ロード)獣医臨床学科・獣医生理薬理学部(ミューア)ならびに獣医病理学部(ワイスブロード)より マーク・モーリス財団からの助成金により一部支援を受けた。


要約
胃拡張-捻転のイヌの13症例のうち、不整脈および心筋性壊死の組織学的所見がともに認められたものが8例あり、心筋変性壊死があり不整脈のない1例、不整脈があり組織学的変化のない2例があった。2例はいずれも観察されなかった。不整脈には心室頻脈および融合収縮を伴う発作性心室頻拍が最も多かった。
_______________________________________

イヌの胃拡張-捻転(GDV)が進行すると、合併症としてしばしば心肺機能の低下がみられる。静脈還流の低下の主因には、ガス、液、食餌で充満した胃による尾部大静脈と門脈の圧迫が考えられている(トドロフおよびヴァンクライニンゲン)。心電図、血行動態および血管造影の観察により、静脈還流、中心静脈圧、動脈圧、1回拍出量、心拍出量の低下および心拍数の増加が報告されている(ウィンフィールドおよびマーキュリー)。これらの血行障害の結果として循環性ショックを発症し、有効循環血流量の低下、酸素供給能の低下、嫌気性代謝への移行、さらに終局的には細胞死に至る。これらは圧迫要因の外科的除去や内科的治療の後にもしばしば持続する。

GDVにおける不整脈の進行は、酸塩基および電解質の異常、自律神経機能の失調および心筋虚血が要因とされている。イヌのGDVの症例では虚血の形態学的証拠はいまだ報告がない。本論文では、臨床例における心筋の病変と不整脈との関連を報告する。

試料と方法
死亡、もしくは胃拡張および胃捻転(部分あるいは完全)のため安楽死させたイヌ13例の心を用い、心筋虚血に伴う巨視的および組織学的変化を観察した。心試料は肉眼観察の後、中性の10%ホルマリン緩衝液にて浸漬固定した。いずれの試料についても左右の心室、心室中隔、左右の心房の切片標本を作製し、組織学的に評価した。(中略)

成績
肉眼ではいずれの心試料においても病変は認められなかった。顕微鏡でしばしば観察された病変は、細胞核濃縮の不規則な多発および好酸球の増加であった。重篤な病変では、染色核の欠損と細胞内石炭沈着が見られた。これらの病変は心筋の変性および壊死と鑑定され、うち4例には細胞性の浸潤や増殖を伴わなかった。5例においては変性壊死領域に組織球およびマクロファージの増殖を認めた。うち3例では、間質腔において好中球を認めた。さらに1例では心筋の変性壊死病巣に組織球およびマクロファージを認めるものがあった。(中略)

考察
観察により、心筋虚血によるさまざまな臓器的および組織学的異常がイヌのGDVに合併して生じることが示された。病変組織には経時変化による多様化が見られた。変性および壊死は発症5時間に見られる虚血の初期病変であり、しばしば石炭化を伴う。壊死部の食作用および好中球の浸出は虚血後5~6時間で見られる。線維芽細胞の出現は4日後、結合組織の出現は9日後に認められる。同等の心筋病変はラット、ウサギ、イヌにおいて、出血性ショック、低血圧ショック、冠動脈の一時的閉塞とその後の再灌流、イソプロテノールの腹腔内あるいは皮下投与により誘発されている。(中略)

イヌの胃拡張の症例では、洞頻脈による静脈還流の低下と低血圧の出現が報告されている。洞頻脈と心不整脈は心筋の酸素需要を著明に亢進させることがあり、これに心拍出量、拡張期時間および動脈血圧の低下による冠灌流の不全が伴う。その結果、心筋に酸素欠乏をもたらし、重篤な例では心筋の壊死を生ずる。したがって、血行動態の障害の持続時間と規模は、心筋の組織学的異常の進行を決定する要因である。

イヌGDVに伴う心不整脈の重要性を指摘する報告がある。イヌGDVにおける心筋虚血と不整脈の進行との関係はいまだ推測の域を出ない。本研究では組織学的病変のみに起因する不整脈の出現についての決定的な証拠は得られらかった。細胞性の変性と炎症が貢献因子であることは、イヌNo.1,2において不整脈がみられず、イヌNo.5~13では見られることから、示唆されている。組織学的病変のないイヌNo.3およびNo.4にはいずれも不整脈が認められ、組織学的病変のあるイヌNo.5には不整脈は認められなかった。不整脈には、麻酔、交感神経系の緊張、酸塩基および電解質の状態、および血中心筋抑制物質などの他の要因を考慮する必要があろう。

心不整脈の進行の基本的な機序と考えられているのは、電気伝導と自律性の異常、もしくはこれらの複合である。不整脈亢進の主な細胞電気生理学的因子としては、(1)静止膜電位、(2)心筋活動電位の脱分極の上り相(第0相)における干渉、(3)活動電位の持続時間の著明な短期化もしくは長期化(再分極の不規則性)および副組織におけるペースメーカー活動の亢進もしくは進展(自発的拡張期脱分極)、などが知られている。イヌの最近の実験においても、一過性の心筋虚血の結果として本研究と類似のプルキンエ線維と心室の筋活動電位の異常が報告されている。また心筋虚血のイヌから切除して体外で調べた心内膜下のプルキンエ線維においても、48時間にわたって自発的拡張期脱分極と自律性インパルスの発生が観察されている。心室筋細胞の心室性不整脈への関与については現在のところ証拠は得られていないが、ピルキンエおよび心室筋細胞の活動電位の持続時間の変化、とりわけ活動電位の延長により、誘発された弱いインパルスの再入と発作性心室頻拍を誘導するとの推測がある。イヌGDV症例における心室頻拍の進行に関する他の潜在的な貢献因子としては、心筋壊死による毒性物質の産生、局所的な酸塩基および電解質の異常、および自律神経失調が挙げられる。イヌGDV症例における心室頻拍の進行に関しては、その機序にかかわらず、心筋細胞の損傷をその潜在的な貢献因子として考えるべきである。







 

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