2009/11/30
コモンマーモセットにおける急性胃拡張
Laboratory Animal ScienceCopyright 1981
by the American Association for Laboratory Animal Science
F J スタイン, D H ルイス, G G ストット,&R F シス
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テキサス州、カレッジステーション、テキサスA&M大学、獣医学部、獣医解剖学科(Stein, Stott,Sis)及び獣医微生物・寄生生物学科(Lewis)一部、メリーランド州ベテスダ国立研究所、研究資源科からの支援を受けた。カンザス州トピーカ、リビアナフード社企業製品部、ヒルズ部門、マーモセットサイエンスダイエット。インディアナ州エバンズビル、ミート・ジョンソン・ラボラトリーズSustagen®ニューヨーク州ノーウィッチ、ノーウィッチイートン製薬Pepto-Bismol®
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要約
ゲンタマイシン及びfuroxone(一般名フラゾリドン)を用いた抗微生物療法後にマーモセットのコロニーにおいて、急性胃拡張の診断がなされた。全部で29頭の罹患したサルが、胃拡張をきたした後5週間の間に死亡した。全てのサルの胃内容物にクロストリジウム・パーフリンジェンスA型が存在することが証明された。抗微生物療法を行った結果生じた胃内細菌叢の変化が、誘発要因と仮定された。
キーワード:胃拡張 クロストリジウム・パーフリンジェンス Callitrichidae
急性胃拡張は大量のガス、液体による胃の鼓脹、嘔吐、虚脱、死亡などの特徴を有する多くのサル種の疾患である。(中略)
症例報告
抗微生物療法の計画実施後、5週かにわたって29頭のマーモセットが急性胃拡張をきたし死亡したことが本研究を行う動機となった。急性胃拡張と、罹患したサルにおける腸内容物のクロストリジウム・パーフリンジェンスA型の蔓延の間には明らかな関連がある。1975年以来、テキサス州A&M大学において180頭のマーモセットのコロニーを、玉砂利囲い場のついた三戸建モジュール式組立屋内屋外ケージを用いて維持した。サルは急性胃拡張を発症する前、ほぼ17ヶ月間、これらの施設において飼育した。サルの主要な食餌は40~50グラムの缶入り食餌(ヒルズ)のほか、入手できたゴミムシダマシの幼虫や果物を毎日、補助食として与えた。水は自由摂取とした。
1978年12月、モジュール式ユニットのサルが4週間の間、連日死亡した。最初の子ザルが死亡して5日後、子ザルが死亡したケージの近接のケージで2頭の成体ザルが死亡しているのが発見され、またコロニー全体を通じて一過性の下痢が観察された。ソンネ赤痢菌が2頭の子ザルの腸管から回収されたが、その後の成体ザルの腸内容物、及びコロニー残留物の糞便飼料の培養からは赤痢菌その他の腸病原体の存在を明らかにすることはできなかった。しかし、赤痢菌が分離されると直ちに、罹患したハウジングユニットの59頭のサルに硫酸ゲンタマイシン5mg/kgを1日2回、7日間筋肉内投与し、furoxone溶解パウダー2.25g/Lを連日、2週間飲料水に混ぜて治療した。
次に軽度の胃疾病の徴候が認められ、サルはそれまで食べていた食餌を拒絶する一方、少量の液体食餌を容易に受け入れた。胃の不快症状を安定化させる治療として、罹患したサルにサリチル酸ビスマス2.5ml/kg及びネオスポラミン0.002mg/kgを連日、5日間経口投与した。治療は有効性に限界があり、罹患したサルは急性胃拡張をきたす前に、3~5日の間、間歇的な下痢をきたした。5週間の期間中に、29頭のマーモセットが死亡した。罹患したサルは、午前中、腹部拡張をきたしていたが、ほとんどが死亡、または瀕死状態であった。瀕死状態のサルを治療しようと試みたが不成功であった。
病理学的所見
検視した全てのサル(25頭)の腸管は、相当量のガスと淡褐色の液体で拡張していた。いずれの胃にもガスが充満していたが、破裂しているものはなかった。微量のガスの泡及び浮腫が腹側頚部、腹部の皮下筋膜に認められた。空腸及び回腸の粘膜は充血していた。空腸及び回腸の顕微鏡検査により、空腸及び回腸上皮の充血、及び粘膜表面の一部欠損、粘膜固有層の肥厚化、及び細胞性デブリの蓄積が明らかとなった。
微生物学的所見
罹患したサルのケージにあった餌サンプルの10%懸濁液を、還元培養液に入れて希釈し、固形の平板培地上に置いた。平板培地を37℃で、18-24時間嫌気性に培養し、特微的な黒色クロストリジウムコロニーを数えた。クロストリジウム(10個/g未満)が、検査した一部を消費した缶入り定量食餌20サンプルのうち、わずか3サンプルにのみ認められ、液体定量食餌には全く認められなかった。25頭のサルの胃内容物ほぼ1mlを、750ユニット/mlペニシリン、750mcg/mlストレプトマイシン、及び20ユニット/ml マイコスタチンを含む9ml の脳ー心臓注入培養液に混ぜることによりウイルス薬剤処理を行った。(中略)
考察
通常の環境下で一時に、少量の食餌のみしか消費しないマーモセットなどのサルは、過消費する傾向があると考えられるサルよりも急性胃拡張をきたす可能性は少ない。しかし、サルの胃内細菌叢の相対的な組成を変化させる要因も、急性胃拡張において重要な役割を果たすと考えられる。したがって炭水化物で増殖し、異常な程度に、非常に多数の嫌気性微生物を発達させる胃内細菌叢が発達するのを助長する状況は、おそらく急性胃拡張を発症しやすくするであろう。
クロストリジウム・パーフリンジェンスA型は検視の対象となった25頭のサルの胃内容物から回収された。クロストリジウム・パーフリンジェンスは餌から常に回収するということはできなかった。さらに多数の微生物(ほぼ10⁵個/ml )が、計数試験の対象としたサルの胃内容物に認められた。これらの所見は微生物が罹患したサルの腸管において増殖していることを示唆するものである。観察されたクロストリジウムの発生源は知られていない。クロストリジウムは多様なサルの種の正常な細菌叢の大きくない一部であるが、一定の環境下では高濃度に増殖する可能性がある。
急性胃拡張における主要な病因としてクロストリジウム・パーフリンジェンスの役割は、それが胃内容物から回収できるガスを発生する唯一の微生物であるという所見にによって示唆された。本研究における大発生はおそらく、潜在的な赤痢菌家畜流行病を制御する目的で行った抗微生物療法によって、胃内細菌叢がクロストリジウム・パーフリンジェンスの増殖が容易になるように選択的に変化したときに始まったと思われる。