2009/08/18
GDVによる胃の膨張は”飲み込んだ
空気”と主張・・・
大型犬は→
空気を飲み込み過ぎて→胃拡張になり→捻転が引き起こされ→GDVに
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陳述書
1) 経歴
私は現在パデュー大学獣医学部獣医病理生物学科で臨床疫学の助教授をしています。私はテネシー大学において畜産学の理学学士号及びD.V.M.をそれぞれ1977年及び1979年に取得しました。また、ジョージア大学(アセンズ)で生理学の理学修士号、パデュー大学(インディアナ州ウェストラファイエット)で臨床疫学の博士号を取得しました。1989年から1992年まで、ジョージア大学獣医学部小動物内科大学院で臨床研修(研修医)を行いました。
私は、米国獣医内科学会から認定された小動物内科専門医です。ここにいう小動物には、大型及び超大型犬を含むあらゆる犬種が含まれます。このような専門的知見を基礎として、私は、あらゆる犬種における、正常な機能を有するイヌの消化器官及び機能異常を有するイヌの消化器官に生じる生理学的経過に通じています。私は、所属専門団体の一つである「比較消化器病学学会(Comparative Gastroenterology Society) 」において、メンバーとなっています。また、私は、米国獣医予防医学学会から認定された獣医予防医学の専門医です。私は、テネシー州、ミズーリ州及びテキサス州において資格を有する専門医として診療に携わっていたことがあり、現在インディアナ州で開業医として有効な免許を持っています。
1979年から2002年まで、米陸軍獣医隊の獣医務官及び獣医として米陸軍の現役の軍務についていました。私は、この職務において、軍に関連する小動物(主にイヌ)に関する公衆衛生政策立案及び治療を担当していました。世界中に約2000頭余りの大型犬種を抱える米国国防省軍用犬獣医サービス(U.S.Department of Defense Military Working Dog Veterinary Service)の主任を務め、また陸軍総合医療センター&スクール獣医学部(U.S. Army Medical Depaetment Centr and School Department of Veterinary Science)の部長を務めました。私は、本訴訟において被告人のコンサルタントとしての仕事を依頼されるまで、被告人とは何ら関係を有していませんでした。
私はイヌの胃拡張・胃捻転(GDV)の発見、処置、研究に関し、豊富な経験を有しています。私は、軍用犬プログラムにおいて働いていた際、1993年から96年の4年間にかけて死亡した927頭の軍用犬を調査・研究しましたが、これらのイヌのうち11頭につき1頭の死亡がGDVによるものでした。また、私は1980年代初頭の3年間、当時の西ドイツに在住し、同地においてもGDVの症例を個人的に扱ったり、多くの症例を耳にする機会がありました。私は、職業上、これまでに50頭から75頭程度のGDVの症例を取り扱っており、胃腹壁固定術を含む手術を施しています。
2) GDV 序説
a) 概説
GDVは、(1)胃の膨張または膨満(拡張)と(2)胃の食道及び小腸との接合部分での「ねじれ」(捻転)、の二つの側面。要素から構成されています。GDVにより死にいたることがあるのは、膨張し捻転した胃が大静脈を圧迫し、その結果心臓への血流及び心臓から他の臓器への血流が妨げられ、体内の細胞に必要な酸素及び栄養が届かなくなるからです。このプロセスから急速にショック状態に至り、身体のさまざまな機能が喪失することになるため、直ちに処置が必要となります。
b) 発症しやすい犬種
GDVを発症する危険性は全ての犬種にありますが、純血の大型または超大型犬種で特に発症しやすいとされています。研究によれば、米国においてもっとも胃捻転の危険の高いとされる犬種は、グレートデン、セントバーナード、ワイマラナー、ゴールデンセッター、アイリッシュセッター、スタンダードプードルの6つです。米国において次に発症しやすいとされる犬種には、アイリッシュウルフハウンド、ボルゾイ、ブラッドハウンド、マスティフ、秋田犬、ブルマスティフがあります。中でもグレートデンはきわめてGDVの発症率が高い犬種です。グレートデンにおいては生涯において1回以上のGDVを発症する確率が36,7%から42,4%であるとされています。
c) 症状
GDVは突然、しかも特に深夜に発症することが多いとされます。夕食後の直後よりは、午後10時から午前3時の間に発症するのがもっとも一般的です。過度のガスの蓄積(このガスはほとんど呑み込んだ
空気です)により胃が膨張するのですが、胃の中身はガスのみである場合、ガスが液体と混じった泡状である場合、及び、ガスと食べ物が混ざったものである場合があります。GDVを発症したイヌには、落ち着きなく歩きまわる、げっぷをしようとするが出ない、実際にげっぷをする、吐く、腹部膨満、吐き気をもよおす、無気力、動くのを嫌がる、呼吸しようとしてウーという声を出すなどの症状が観察されます。
d) 処置法
GDVまたはその疑いがあると診断された場合、最初にとるべき処置は胃内の空気の除去(減圧)です。減圧を行うためには、胃内にチューブを挿入する、外科手術、troharization (胃穿刺)という3つの方法があります。胃穿刺とは、胃内の減圧を行うため、体の外から胃に直接針を挿入することをいい、通常重篤な状態の場合にのみ、とりあえずの処置として行われます。ただし、胃穿刺だけでは十分ではなく、さらなる処置が必要となります。
経口胃チューブによる方法では、チューブを口から食道を通って胃に達するまで差し込みます。この方法では胃内の圧力が急速に減じ、よってショック状態は緩和されますが、必ずしも胃の位置(ねじれ)が元に戻るわけではありません。胃の位置を正常な状態に戻し正常な血流を回復させるためには、外科手術(胃整復術)を行い、獣医師が手で胃を解剖学的に正常な位置に戻すことが必要です。この外科手術を行う際に、捻転によって胃の細胞がどの程度傷ついているかまたは壊死にまで達しているかについて調べることになります。GDVであるとの診断を確定するため、獣医師は外科手術を行う前に胃のX線写真をとるのが通常です。患者のイヌについてショックがどの程度のレベルに至っているか、長時間の麻酔に耐えられるかを手術の前に判断する必要がありますが、米国では外科手術を速やかに行うことが推奨されています。
また、米国では、GDVを一度でも発症したイヌに対しては、予防的に胃腹壁固定術を施すことが推奨されています。この手術では、再度捻転が起こることがないように、腹壁と胃壁を縫合して固定します。胃の損傷が著しい場合には細胞が回復するまで間手術を控えたほうが良い場合もありますが、その他の場合は手術を行うべきとされます。この手法に関する最初の論文のうちのひとつがドイツ(ハノーバー)の獣医学大学によって発表されています。この研究によれば、1年間に大学の診療所で処置された約40頭のイヌのうち、手術を行わなかったイヌでは75,8%が再発したのに対して、手術を行ったイヌでは僅か6,6%しか再発しなかったとの結果が出ました。同様に、オスロにあるノルウェー大学獣医学部による研究では、GDVを発症したイヌに胃腹壁固定術を施さなかった場合、再発する確率は71%に達することが報告されました。
3) GDVの原因
概説:
GDVの原因について、獣医学会では、一般的に、単一の原因はなく、複数の要素が複合してGDVを発症させるものであり、そしてどのような要素が原因となりうるかは個体によって異なると考えられます。同じ環境で育てられ同じ世話をされて同じ餌を与えられたイヌの間でも、片方はGDVを発症するのにもう一方はしない、ということはあるのです。GDVを発症しやすいとされる犬種に関してさえも、GDVを引き起こす原因となることが証明された要素はありません。
他方、あるイヌに備わった特定の素質、例えば犬種、サイズ、体型、体重または年齢などが、そのイヌが生涯においてGDVを発症するリスクを高めることがあります。一般的に言って、その犬種が大型犬であればあるほどそのイヌがGDVを発症するリスクは高くなります。ゆえに、大型ないし超大型の純血種はもっともGDVのリスクが高いのです。
加えて、イヌの体型、特に胸部または腹部が占める割合は重要な要素であることがわかっています。胸郭が狭く深い犬種は、胸郭が広く浅い犬種よりGDVの発症率が高くなっています。同じ危険の高い犬種の中でも、個体ごとの体型がGDVリスクに影響することもわかっています。たとえば、アイリッシュセッターにおいて、胸の深さと広さの割合はGDVリスクに影響することがわかっています。アイリッシュセッターの中でも、深くて狭い胸郭を持つ個体は一般のアイリッシュセッターに比べて発症率が高いのです。同様に、腹部が深く狭いグレートデンはそうでないグレートデンよりGDVにかかりやすいのです。なぜ胸部ないし腹部の割合がGDVリスクに影響するのかは解明されていませんが、深く狭い胸部ないし腹部を有するイヌでは、特に、満腹時に回転運動を行ったとき-たとえばイヌがごろごろ転がったり運動したときなど-に、胃ないし靭帯が伸長・回転しやすいのではないかと考えられています。
また、研究者は、GDVにかかりやすいイヌはそのような遺伝的な素質を有しているのではないかと考えています。親または兄弟がGDVにかかったイヌはGDVを発症する危険性が高いのです。この点、研究者はそのイヌの胸部ないし腹部がどのような形をしているかという点に関する遺伝子が影響しているのではないかと考えています。したがって、ブリーダーがドッグショーのためにある特定の体格を有するイヌを繁殖させるなどの行為によりGDVリスクが高められたり、また他の遺伝的問題が増加している可能性があります。
同様に、加齢もそのイヌに備わった危険因子のひとつです。癌と同様、GDVにおいても加齢が特に超大型犬においてGDVリスクを高めていることが証明されています。年齢が高くなるほど、GDVにかかりやすくなるのです。超大型犬が歳をとるにつれてGDVにかかりやすくなる理由は、歳をとるにしたがって胃の靭帯が伸びてしまうことによるのではないかと説明されています。胸が深くて狭い超大型犬では、胃の靭帯が伸びるのに十分な空間があるからです。
また、そのイヌの全般的な健康状態が危険因子となると考えられています。研究によれば、飼い主が痩せていると思っているイヌは、GDVを発症する危険性がより高いことがわかっています。また、生後1年間に慢性のまたは重大な健康状態を経験したイヌが発症する危険性が高いこともわかりました。
最後に、イヌの気質または興奮性、ならびに早食いにつながるような競争的な環境などの一定の環境要因が、GDV発症の原因になり得ることが複数の研究によって示唆されています。
4) GDV:胃中のガスの発生源
胃拡張においては、胃内の過剰なガスにより胃が通常の形状を超えて膨張します。1970年代に行われた研究には、胃内の食物がバクテリアによって発酵したことによりこのガスが形成されると推論するものがありましたが、このような推論を支える合理的な証拠は提示されていませんでした。現在では、このガスは主として呑み込んだ
空気(呑気)から成る、というのが
獣医学界の
定説です。
理論上は、胃内のガスは、(1)呑気症により呑み込んだ
空気、(2)唾液の重炭酸が胃酸と混じって形成された二酸化炭素、(3)発酵により形成される水素、メタンガス及び二酸化炭素、の3つのいずれかである可能性があります。しかし、複数の実験により、胃内のガスは主として呑み込んだ
空気ということが
証明されています。
Van Kruiningenという研究者の行った初期の研究は、胃内のバクテリアによる発酵と胃拡張の間に因果関係があることを証明しようとしました。Van Kruiningenは、GDVで死亡したイヌの胃の内容物を分析して、一定量の二酸化炭素が含まれていることを発見しました。彼は、二酸化炭素が存在することは発酵によりガスが形成されるという理論を支えるものだと考え、その二酸化炭素は唾液中の重炭酸が胃酸と混ざったことにより発生したかもしれないという可能性については解明も反証もしませんでした。現在では、Van Kruiningen自身を含む研究者が、この研究の方法及び結論に限界があったことを認めています。
当初のVan Kruiningenの研究では、死亡してから6ないし50時間も経過したイヌの胃中からテスト用のサンプルが採取されています。生理学観点からは、死亡及びその後の時間の経過がテスト結果に影響していると考えられます。したがって、このテスト結果は、GDVを現に発症しているイヌの胃の中でなにが起こっているかを示すデータではありません。
加えて、Van Kruiningen自身もその後の研究で、当初発酵の原因ではないかと推測していたClostridiaというバクテリアがGDVを発症したイヌに共通して存在しているわけではなかったということを認めています。
さらに、発酵の過程においては、メタン及び水素も発生するはずであるにもかかわらず、この研究では胃中のメタンないし水素が測定されていません。Caywoodという研究者が後に行った研究では、GDVに罹患したイヌの胃中のメタンないし水素は無視できるほどの量であり、胃中のガスは室内の
空気とほぼ
同じ成分であるということが証明されました。したがって、この研究結果は発酵理論とは矛盾することになります。CaywoodはGDVを発症したイヌの胃中の二酸化炭素は、イヌが呑み込んだ重炭酸を含む大量の唾液が胃酸と混じりあって発生したのではないかと説明しています。
Van Kruiningenの研究と異なり、Caywoodの研究はGDVを発症している生きたイヌで行われています。呑み込んだ
空気ないし呑気症は、健常なイヌ及び人間における胃腸内のガスの主たる発生源です。Caywoodは、GDVにより手術を受けているイヌからガスのサンプルを採取して、これを測定し、一般に認められるこのセオリーがGDVのイヌの胃中のガスに当てはまるのかどうか検証しました。テスト結果を分析したところ、胃中のガスにおける水素及びメタンは無視し得るほどの量であり、Clostridiaは胃の内容物から培養されませんでした。したがって、胃中のガスは発酵によるものではなかったのです。
さらに、一般に理解されている消化管における生物学的プロセスから言っても、胃内で発酵が起こるということはきわめて考えにくいことです。Burrowsという研究者の研究によれば、健康な大型犬における胃の空虚化速度(胃が空になる速度)は、食物の種類によって異なるものでなく、胃が空になるまでにかかる時間はおおよそ食後2~3時間であるということが示されています。今ではその信用性に疑義があるとされている前記のVan Kruiningenによる一連の研究では、ある一定の食物は、他の食品に比べて胃から排出されるまでの速度が遅く、よってバクテリアによる発酵が起こり副産物としてのガスが産生するとしていました。しかしながら、Burrowsの研究により胃の空虚化の速度は食物の種類によって変わらないということが示されたことによって、Van Kruiningenの従前の研究は発酵のメカニズムとも矛盾するということが証明されました。
一般的に、食物はイヌの胃や小腸を通過する過程で、消化できる部分は砕かれて体に吸収されます。消化できない部分はゆっくりと残りの消化管を通って最終的には大腸内に存在するバクテリアによって処理されます。消化されなかった残滓が発酵し、ガスが発生するのは大腸においてなのです。しかし、大腸内のガスは、オナラとなって体外に排出されるのであり、小腸の長さ、及び「蠕動」と呼ばれる小腸の前進運動のため、胃に押し戻されることはありません。したがって、大腸での発酵はGDVの一部である胃拡張の原因たりえません。
最後に多くのバクテリアが存在する大腸と異なり、酸の濃度が高い胃内ではきわめて少量のバクテリアしか存在していません。バクテリアの量が少ないこと、及び、通常食べ物が胃から排出される速度からしても、生物学的にGDVを発症させるほど(すなわち、胃拡張を起こすほど)大規模な食物の発酵が胃内で起こることを裏付ける科学的な証拠はありません。さらに、上述したように、GDVにおける胃拡張は通常突然発生するのです。仮に胃内に発酵を起こすに十分なバクテリアが存在したとしても(一般的に胃腸学専門家の間でそのようには考えられませんが)、胃拡張を発生させるほどの量のガスを産生するには少なくとも数時間はかかるのです。さらに、これには大型犬やある特定の犬種に限ったプロセスではありません。ある一定の食物が胃内で発酵するものであれば、これを食べたすべてのイヌの胃が拡張するはずです。発酵または特定の食餌がどうして特定の犬種にのみ影響を与えるのか説明がつきません。
仮に胃中で発酵が起こるとしても、イヌが食べ物を食べた途端にGDVを発症するなどということはありえません。発酵には時間がかかるからです。すなわち、イヌが食事をしている間または食後すぐにGDVを発症したとするならば、発酵がGDVの原因であることはありえず、むしろ呑気症が原因だったと考えられます。なぜなら、このように急激に発病するということは、食事中にそのイヌが大量に
空気を呑み込んでいたということと
符合するからです。
5) ドッグフードにおける大豆の使用
大豆は、
特に小麦、とうもろこし、大麦と比較して、たんぱく質及びカロリーの効果的な供給源です。大豆はイヌの大腸において
ガスを発生させることがありますが、このガスはオナラとして排出されます。オナラが増えることは飼い主にとっては不快だとされることはありますが、
イヌの健康にとって
有害なものではありません。
私の知る限り、
大豆入りのドッグフードが
GDVの原因であるとするいかなる
科学的・学術的文献もまたその他の
証拠も
存在しません。
結論:
大豆が胃捻転を引き起こす原因となる
胃拡張の発症に関与しているということが
証明されたことはありません。私の知る限り、
大豆が何らかの形で
関与しているとの結論を支持する
科学的証拠は
ありません。同様に、私の知る限り、
GDVと特定のブランドのドッグフードの間に何らかの
関連性や
因果関係があることを
示す研究結果も
ありません。
生物学的プロセスによれば、
ドッグフードに含まれる大豆が発酵して、イヌの胃中で胃拡張を引き起こすほど
大量のガスを
発生させるとの
証拠は
ありません。食べ物は発酵が起こるほど長い間胃中に留っていませんし、高い濃度の胃酸が存在するため、
胃内には発酵を引き起こすのに十分な量の
バクテリアは
存在しません。反対に、獣医学界の胃腸病専門家の間では、胃拡張を発症した胃内のガスは主として呑み込んだ
空気から成るというのが広く知られまた受け入れられている考え方です。
以上から、メンテナンスが他の多くのドッグフードのブランドと同じく大豆を含有しているとしても、
大豆はイヌの
胃拡張を引き起こす
ガスの発生とは無
関係です。ヒルズの
ドッグフードに含まれる大豆がイヌの
GDVを引き起こしたとする原告の主張は
科学的な証拠により裏付けてられておらず、かつ、
獣医学界において
存在しているあらゆる科学的証拠と矛盾
しています。
以上のとおり
相違ありません。
2005年10月11日
George E. Moore, DVM, Ph.D
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やはり
空気は危険か?
それとも
空気を飲み込む犬が悪いのか?
だとするなら、呼び名を
”空気飲み込症候群” に?・・・
つづく