2009/10/25
下記の記述は、ジゼル・ホスグッド(Giselle Hosgood)の論文(Clinical Update犬の胃拡張・捻転JAVMA,Vol204,No.11,June 1,1994)からの抜粋。
胃腹壁固定術1984年、フランダース(Flanders)とハーベイ(Harvey)は29頭の犬で施工したチューブを使用した胃造瘻術に成功したと報告した。適切に管理した17頭では1頭のみに再発がみられた。この5.9%という再発率は、その後引用した13.6~29%より実質的に低い。9頭は術後1週目に死亡し、うち1頭は、胃造瘻術のチューブを時期早尚(術後12時間)に抜去したため腹膜炎を発症し、診断的再切開と胃造瘻術の閉鎖を行った例であった。フルデー・ラムステット(Fredet-Ramstedt)法による幽門切開術またはハイネケ・ミクリッチ(Heineke-Mikulicz)法による幽門形成術を29頭の犬全てに行った。
また1984年には、ジョンソン(Johnson)らが76頭の犬にチューブを使用した胃造瘻術を施工し、最短で2年間の管理を行い、同様に再発率が5%であったと報告した。チューブを使用した胃造瘻術に加え、23頭にはフルデー・ラムステッド法による幽門切開術を施工し、26頭にはハイネケ・ミクリッチ法による幽門形成術を施工した。
1985年にフォックス(Fox)はチューブを使用した胃造瘻術を施工した犬24頭中3頭に胃拡張・捻転が再発したが(再発率11%)、肋骨周囲胃腹壁固定術(circumcostal-gastropexy)を施工した5頭中、再発や合併症を発症した犬はいなかったと報告した。チューブを使用した胃造瘻術を施工した24頭中4頭は、合併症を次のように発症した。うち2頭はチューブを時期早尚に抜去したため胃造瘻術部の漏出から腹膜炎を発症して死亡し、1頭は胃内容物の皮下浸潤が原因の蜂巣炎を発症し、1頭は外科的修正手術と閉鎖が必要な永久的なストーマを発症した。胃造瘻術または胃腹壁固定術に加え、4頭にはハイネケ・ミクリッチ法による幽門形成術を、3頭にはY-U前位縫合幽門形成術(Y-Uadvancemet pylorlplasty)を施工した。
1985年、ライブらは、30頭の犬に肋骨周囲胃腹壁固定術を施工し、4~28か月管理した結果を評価した。再発は1頭のみで報告され(再発率3.3%)、全ての犬でX線撮影または剖検の結果に基づいて胃腹壁固定術が変化していないと考えられた。胃腹壁固定術に加え、ハイネケ・ミクリッチ法による幽門形成術を施工した犬もいた。
1986年、ウルフソン(Woolfson)とコストリック(Kostolich)は、肋骨周囲胃腹壁固定術を行った34頭中2頭に再発し(再発率6.9%)、全体の死亡率は8.8%(34頭中3頭)であったと報告した。1頭は漿膜筋層弁の部位に穿孔を起こし腹膜炎を発症したが、外科的及び内科的な治療に反応した。
1986年、シュルマン(Schulman)らは、腹横筋筋弁を幽門前庭の漿膜筋層切開部端に縫合するといった新しい胃腹壁固定術を報告した。全体の死亡率は25%(28頭中7頭)であったが、胃拡張・捻転は術後3~33か月に評価した生存犬に再発はみられなかった。フルデー・ラムステッド法による幽門形成術を全ての犬に施工した。部分胃切除を要した3頭は術後72時間以内に死亡した。
1989年、ホイットニー(Whitney)らは、ベルトループ(beit-loop)胃腹壁固定術と呼ぶ別の手技を報告した。この手技には、幽門前庭の漿膜筋層弁の作成を含む。この弁はその後、腹横筋筋層のトンネルを通過させる。術後3~13か月に評価した20頭中、再発した犬はいなかった。幽門形成術はこのうちの数頭に施工された。
1993年、マイヤーリンデンバーグ(Meyer-Lindenberg)らは、胃拡張・捻転の再発を予防することを意図した迅速な胃腹壁固定術について報告した。その手技には、吸収性の縫合糸(ポリグラクチン910)を使用して白線の頭側部分は閉鎖した状態での幽門前庭の漿膜筋層の処置などを含めた。捻転を伴わない胃拡張は、本手技を適応した84頭中6頭(7%)に術後6か月以内に診断された。平均19か月の管理期間中に胃拡張・捻転を発症した犬はいなかった。これに対し、経口胃チューブを使用した胃の減圧術を行った胃拡張・捻転を治療した33頭中、76%に胃拡張・捻転が再発した。この胃腹壁固定術はその後の開腹術に困難が発生するという明らかな欠点があるが、胃拡張・捻転の再発予防に成功したと考えられる。
右側胃腹壁固定術が胃拡張・捻転を有する犬の再発を予防する外科的治療であることは明らかである。しかし、現在発表されている手技には理想的なものはないと考えられる。in vitro 試験により、肋骨周囲胃腹壁固定術によって形成された癒着は、チューブを使用した胃造瘻術や切開による(永久的)胃腹壁固定術によって形成された癒着よりも強固であることが判明したが、再発率は全ての手技で同様であった。チューブを使用した胃造瘻術は、時期早尚なチューブの抜去、チューブ周囲の蜂巣炎の発症、胃筋電性活性の変化に相関した高い罹病率を有すると考えられる。おそらく成功率における最も重大な因子は、外科医の手技に対する習熟度、その手技を熟達して行える能力、時宜を得た方法で行うことであろう。
つづく