急性胃拡張のイヌの剖検

Acute Gastric Dilatation:A Review of Comparative
Aspects,by Species,and a Study in Dogs
and Monkeys


(前文省略)

材料および方法
1966年から1973年2月まで、AGDで死亡したイヌの遺体をコネチカットの獣医師に依頼した。同期間中に、自然発症のAGDを有するアカゲザルがコネチカット大学心理学部サルコロニーから転送された。各品種および年齢の健康なイヌは、共同犬舎、野犬留置場、獣医師および業者から入手した。

剖検
AGDで死亡したイヌ33頭およびサル14頭は死後数時間以内に大学に搬送され、詳細な剖検、写真撮影および胃内容物のサンプリングを行った。イヌ14頭およびサル16頭のすべての主要臓器および内分泌臓器の組織片は、10%中性ホルマリンに固定し、パラフィンに包埋後、6μで薄切し、ヘマトキシリンおよびエオシン染色(または適宜、特殊染色)を施して顕微鏡検査を行った。

剖検所見
自然発症のAGDを有する動物47頭について検討した。33頭はイヌで、14頭はサルであった。

バセットハウンドを除くイヌはすべて大型犬であった(セントバーナード、グレートデン、コリー、ゴードンセッター、アイリッシュウルフハウンド、ジャーマンシェパード、ボクサー、ワイマラナー、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー、大型雑種)。罹患したサルはすべてアカゲザルであった。罹患したイヌの年齢は9カ月~15歳の範囲であった。サルは青年期~成年期であった。AGDの概往は、イヌ33例のうち4例で報告された。

47例のいずれの病歴においては、食後にAGDが認められた。摂食から発症までの間隔は、イヌとサルのいずれも1~15時間の範囲であった。水は、大部分のイヌとすべてのサルに自由に摂取させた。食餌前後の運動は、イヌではさまざまで、個体別に収容したサルでは制限した。

AGDで死亡した動物は、いくつかの特徴的な外部所見が認められた。腹部は膨満して鼓脹性となり、目は沈下し、結膜は濃い青みがかった暗赤色で、口は乾燥し、舌は歯間に噛み締められていることが多かった。唾液が口の周りを覆う動物もいれば、顔面の外部打撲傷あるいは汚れから、激しい苦悶が示唆されるものもあった。

すべての罹患動物の腹腔は、著しく膨満した胃によって占められていた。イヌの胃はバスケットボールの大きさであり、サルのものはその直径の1/3であった。拡張した胃の回転と変位により、以下の2つの基本的な解剖学的変化のいずれかを生じていた。



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胃;イヌ、急性胃拡張。胃は摂食物とガスで膨張しており、赤色から紫色である。他の腹部臓器の位置を著しく変位させている。肺の虚脱に注意。



1)合併症を伴わないAGDのイヌおよびサルでは、拡張した胃が認められ、これはその大湾側で大きく伸張し、腹腔内の通常の左ないし右斜位から頭尾縦位に移動していた(図1)。言い換えると、胃は膨満するにつれて、腹腔の長軸を埋めるようにわずかに移動した。脾臓は胃の左側で通常の位置を占めており、食道の遠位部はねじれてなく、また十二指腸もほとんど変位していなかった。


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図1-イヌの急性胃拡張の図示。死後の写真から描かれたこの図は、生きた動物の膨張した胃の位置を示す。


2)捻転を合併したAGDのイヌでは、拡張した胃が認められ、これはその大湾側で大きく伸張し、その腸間膜軸で捻転していた。腹背方向から見ると、胃は右回りに180°~360°回転していた(図2)。

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図2-胃;イヌ、急性胃拡張。死後の写真から描かれたこの図は、腸軸捻で起こる360°の回転を示している。矢印は回転方向を示す。脾臓は折れ曲がり、横隔膜にぶつかっている右の頭蓋腹部にある。食道遠位部の閉塞に注意すること。


捻転を合併したAGDのイヌ23頭では、19頭の胃は360°、3頭は180°、1頭は270°、回転していた。脾臓は血液で著しくうっ血し、23症例のいずれも異常な位置にあり、回転した胃によって引っ張られていた。一部の例では、脾臓が胃の左側からその背尾位に移動していた。一方では、胃に伴って約90°~180°、脾臓がその長軸上でねじれ、脾臓中央での捻転を起こすか、あるいは脾臓が大網で覆い隠されたものもあった。大部分の例では、脾臓は胃に伴ってほぼ270°移動し、腹腔の左ないし背尾位から右頭位に移動しており、右横隔膜に寄りかかり、その緊張した胃脾間膜によって「V形」に強く曲がっていいた。食道の遠位部はイヌ23頭すべてにおいて閉塞点でねじれ、また十二指腸は横隔膜の中心に隣接した点から始まり、そこでは幽門と食道が絡み合い、拡張した胃の右背面に沿って背尾位方向に走行していた。

胃壁の色は、単純なAGDの通常の桃色ないし黄褐色から、捻転を伴ったAGDの強く充血した濃い暗赤色ないし青色まで多様であった。内容物は、常に粘液や識別可能な食物を含む多量の水っぽい褐色の粥と、相当な量のガスであった。多くの例では、内容物の液相は反芻動物の泡沫性鼓脹と一致する泡沫性を呈した。プラスチック容器に入れた内容物の容積が増し、蓋が押し上げられたように、発酵が継続して認められることが多かった。気相は、胃の相容積の1/2~4/5を占めた。

検査したイヌ25例では、胃内容物のpHは以下の通りであった。すなわち、1頭ではpH3.0、3頭ではpH3.5、1頭ではpH3.8、11頭ではpH4.0、8頭ではpH4.5、1頭ではpH6.0であった。胃粘膜は、暗赤色から濃い黒青色まで多様であり、多量のねばねばした粘液で覆われることが多かった。小さい0.5~1.0㎝径の幽門潰瘍がイヌ4頭で認められた。イヌ1頭には気脹性胃炎が認められた。

ほぼ例外なく、十二指腸としばしば小腸全体正常な直径の1.5~2倍まで拡し、壁が薄くなり、弛緩性で、ガスが充満していた。小腸部分は赤色化し、外観的には膨満した胃による1つの分節の絞扼を反映する変化があった。他の腹部臓器(肝臓、腎臓、膵臓、副腎、結腸および腹腔リンパ節)のうっ血は、症例によってさまざまであった。イヌおよびサルの肺はすべて無気肺で、さまざまな程度のうっ血、水腫および気腫が認められた。胃破裂を伴ったサル1頭には顕著な皮下気腫が認められた。

イヌ14頭およびサル6頭の組織標本の組織学的検査では、すべての症例に共通の基礎疾患または欠乏症あるいはそれらの素因となるものは認められなかった。多くの偶発的な病変、特に高齢動物のものは、各症例で一貫していなかった。

噴門の病変には、サルの1頭での粘膜下リンパ小節の腫大、イヌ2頭での食道腺の囊胞化、イヌ1頭での粘膜、粘膜下組織および節相の単核細胞集簇が含まれていた。既に記述したもの以外の胃底の病変には、イヌ2頭での粘膜下リンパ小節の腫大、イヌ1頭での粘膜および粘膜下組織の単核球浸潤巣、イヌ1頭の小動脈内のミクロフィラリアが含まれていた。

幽門の病変では、イヌ1頭での粘膜下リンパ小節の腫大、サル1頭とイヌ1頭での粘膜下組織の単核球浸潤巣、イヌ1頭での粘膜下組織の異物内芽腫が含まれていた。多くの例では、自己融解により胃粘膜の検査ができなかった。イヌ3頭とサル1頭では、胃の節層間神経叢においてニューロンのリポフスチン沈着が認められた。亜急性食道炎がイヌ1頭に、腸のリポフスチン沈着がイヌ4頭に認められた。

ヒトの腹腔神経節のニューロン病変と糖尿病性消化管機能障害の関係を示唆する所見があることから、AGDのイヌ7頭とサル7頭の腹腔神経節および各年齢の対照イヌ31頭の神経節についてニューロンの異常を検査した。ヘマトキシリンおよびエオシンとともに、ルクソール・ファスト・ブルーHPS染色を用いると、リポフスチンの充満した腹腔ニューロンがイヌ7頭(6歳~15歳)のうち6頭とサル7頭のうち4頭で認められた。同等の顆粒は、対象イヌ15頭(2~10歳)の腹腔ニューロンで認められ、16頭には(2~9歳)には認められなかった。(以下省略)



Van kruiningen HJ, Gregoire K, Meuten DJ. J Am Anim Hosp Assoc 1974; 10:306.
THOMSON'S SPECIAL VETERINARY PATHOLOGY






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