オットセイの急性胃拡張

野生生物疾患ジャーナル,32 (3),1995,pp.548-551
Ⓒ野生生物疾患協会 1995

北オットセイ(カロリナス・ウルシナス)における軸捻転を伴う急性胃拡張

S・フランカ,Jr.,ローレンス・ダン,&ハーバート・J・ヴァンクライニンゲン,
コネチカット大学病理生物学部ノースイースタン野生生物疾患研究所、0629-3089米国コネチカット州ストーズ、ミスティック海洋生物水族館、06355-1997 米国コネチカット州ミスティッククーガン通り55

要約
4歳の雌北オットセイ(カロリナス・ウルシナス)に軸捻転を伴う急性胃拡張が発現した。この動物は、1989年6月から1994年3月までミスティック海洋生物水族館で飼育され、屋外展示されていた(米国コネチカット州ミスティック)。我々は剖検で、胃を360°時計回り回転させ、腹背両面で見られた腸間膜軸に関して観察した。胃はガス、液体、及び部分的に消化された魚で顕著に膨張していた。胃の360°時計回りに回転に続き観察した脾臓はねじれた腸間膜と共に肥大しうっ血していた。これは、鰭脚亜目における軸捻転を伴う急性胃拡張が初めて報告された症例である。

急性胃拡張(AGD)はヒト及びその他の哺乳類で起こる(ヴァンクライニンゲンら、1974)、発生率の低い、生命を脅かす疾患であり、多量のガスと液体による胃の膨張、呼吸器及び心臓の障害、虚脱、及び死亡が特徴である(シュタインら、1981)。形態学的に異なる4つのAGDがあり、それらは、AGD、軸捻転を伴うAGD、破裂を伴うAGD、そして軸捻転及び破裂を伴うAGDである(ヴァンクライニンゲンら、1974)。原因には感受性の高い個体の相互作用、異常な胃、即座に発酵する飼料(ロゴルスキーとヴァンクライニンゲン、1978)、ガス産生性の胃内の細菌叢(ロゴルスキーとヴァンクライニンゲン、1978)がある。我々は、1989年から1994年3月までミスティック海洋生物水族館(米国)で飼育されていた、亜成体の雌北オットセイ(カロリナス・ウルシナス)における軸捻転を伴うAGDの診断について報告する。この動物は3年間にわたる異物消化、鼓腸に付随して起こる間欠的な軽度から中等度の腹部膨張、及び間欠性嘔吐の既往があった。我々の知る限りでは、これが鰭脚亜目における軸捻転を伴う急性胃拡張の初めての報告である。軸捻転は1頭のホッキョククジラ(Balaena mysticetus)(ハイデルとアルベルト、1994)及び捕獲された2頭のオーストラリアオットセイ(Arctocephalus pusillus doriferus)(レッダクリフ、1988)で報告されている。

対照動物は、屋外展示で同種と共に飼育されていた4歳で、29㎏、飼育下で生まれた雌の北オットセイであった(スポッテ、1980)。1日分の食料の配給量は2,8㎏の丸ごとの大西洋ニシン(clupenharengus harengus Linnaeus)、カラフトシシャモ(Mallotus villosus)、イカ(ロリゴペアリ)で、午前半ばと午後中ごろの2回に分けて与えられた。この動物は、食餌中に観察される中等度の胃の膨張が3回発生した(1990年8月、1991年1月、及び1992年6月)ことで強調された、3年間の間欠性嘔吐の既往がある。発症のたびに、室内プールで綿密に観察するために北オットセイを屋外から移動した。嘔吐も、調べた糞便の変調ももなく、毎回262mg次サリチル酸ビスマス(ガーディアン・ドラッグ株式会社、米国ニュージャージー州トレントン)と80mgのシメチコン(IDEインターステート社、米国ニューヨーク州アミティビル)をそれぞれ8時間毎に経口投与し、腹部膨張及び鼓腸はやや軽減した。毎回、尾ひれ足指間部から採血した血液の血液像及び血清生化学分析は、水族館での同種の基準値の範囲内であった。

この動物には落ちている物や水族館の客が展示場内に投げたものを飲み込む傾向があった。1993年の7月、X線撮影検査の準備において、麻酔導入及び維持としてイソフルラン(米国ウィスコンシン州マジソン、アナクエスト)を用い、麻酔チャンバー(ミスティック海洋生物水族館)に入れ吸入麻酔をかけた。麻酔導入は5%イソフルランにて5リッター/分で成功し、動物に7,5mm直径の気管内チューブで挿入を行った(ラシュ社、米国ジョージア州ドゥルース)。腹部X線撮影の結果、胃は前庭部と幽門にガスとコイン数枚があり中等度に膨張していた。静脈血検体の血液像、血清性化学分析、及び亜鉛と銅の分析(ダイアノスティック研究所、ニューヨーク州立獣医大学、ニューヨーク州イサカ)からは異常所見は発見されなかった。

動物はプールから回収される前に物体を嚥下し続け、嘔吐、鼓腸、そして泳ぐ形が異常となる症状の間欠的な発現が次の6カ月見られた。1994年1月、食道と胃の内視鏡検査に先立ち、動物に5mgのジアゼパム(ステリス研究所、米国アリゾナ州フェニックス)を表在殿筋に筋肉内前投与し、イソフルラン吸入にて麻酔を行った。胃の内視鏡検査では、粘膜の異常ならびに異物は見られなかった。

1994年3月4日の朝、通常の配給された餌を摂取した15時間後、プール(水温8℃)で動物が死亡しているのが発見された。死亡前、異常な姿勢や行動は観察されていなかった。死体は剖検まで4℃で保管された。動物が死亡しているのが発見されてから6時間後に剖検を行った。胃は顕著に膨張しており、長さ30㎝、幅18㎝であった。胸部内臓は頭側の胸部3分の1へ押し込まれていた。腹背両面から、十二指腸は胃の噴門と肝臓の間にあり、遠位の食道に絡まっていた。胃はなだらかに肥大しており剛性があった。胃の漿膜表面は滑らかで一様に血管が浮いた灰ー紫色であった。胃には多量のガス、液体、及び部分的に消化した魚やイカがあった。幽門内に測定すると直径2㎝のコインが7つあった。胃の粘膜は散在性に紫色となっていた。脾臓は肥大し、やわらかく、滑らかで、端が丸く腸間膜がねじれていた。胸部及び腹部の内臓組織検体は10%中性緩衝フォルマリン(スパルタン化学株式会社、米国オハイオ州トレド)で固定し、パラフィンに漬け3μmの切片に切り、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した。

組織学的検査では、胃には粘膜固有層出血及び中等度の粘膜下浮腫を伴う顕著な粘膜うっ血が見られた。混在する細菌には、クロストリジウムsppに形態学的に一致した頑丈な四角の微生物が、分泌腺内腔及びまた粘膜表面に付着した摂取物の中に存在していた。脾臓は顕著に赤色髄のうっ血が見られた。肺うっ血及び肺水腫、副腎皮質出血、及び肝の充血も明らかであった。

軸捻転を伴う急性胃拡張は、元来多因子である(ヴァンクライニンゲンら、1974)。家畜に課された餌を与えるパターンが、AGDの発生を決定付ける重要な因子である。ウシ、ウマ、そしてイヌは日常的または間欠的に過剰摂取する動物であり、AGDのリスク増加にさらされている(ヴァンクライニンゲンら、1974)。大型犬では、大量の食糧の1日1回摂取より、慢性的に伸展し拡張すること、もしくは胃内容排出時間が遅くなることで、胃が機能不全を起こす傾向を与えるようである(ヴァンクライニンゲンら、1974)。

胃内容排出の遅延は、AGDが回復したイヌにおいて示されており、高い再発率の一因となっている可能性がある(ファンクイストとガーマー、1967)。水族館では食餌は監視されているものの、オットセイは配給を4から20時間の食間で素早く摂取する。

胃内の細菌叢の性質は、AGDにおいて重要な第2の因子である。クロストリジウムのようなガス産生性細菌が豊富な動物はAGDを発症しやすい傾向がある(ヴァンクライニンゲンら、1974)。今回の症例では胃の細菌学的培養は行っていないが、しかしながら形態学的にクロストリジウムsppと一致した、大きな四角い細菌が胃腺内及び胃の表面に存在した腹部膨張及び鼓腸の再発の既往は、この動物において長年に渡りガス産生性の胃内細菌叢が蓄積又は培養されたことの証拠である。

AGDの一因となっている3番目の因子は、食餌の発酵能である。家畜において、AGDは即座に消化される糖質を多く含む食餌の過剰摂取によるものとされる(ヴァンクライニンゲンら、1974)。これは今回の場合当てはまらなかった。オットセイは低糖質で高タンパクの魚とイカをまるごと、及び骨や軟骨、鱗、ヒレ、そして歯など動物の粗飼料を与えられていた。消化しやすい粗飼料は正常な胃腸運動性に対して重要なものであり(ヴァンクライニンゲンら、1987年)、この種の食餌自体がAGDの原因であったとは考えられない。脂肪分の高い食餌は胃内容排出を遅延させることがある(ボルト、1969年)。ニシン(clupen harengus)等の一部の魚は食餌の脂肪分を顕著に上昇させることがある(ストッダート、1968年)。

先行する胃疾患はさらなるAGDの原因因子である(ヴァンクライニンゲンら、1974年)。この症例において、腸膨張及び鼓腸再発が始まったことに関して、消化したコインが役割を担った可能性があることを容易に無視する事はできない。このような異物が、細菌の異常増殖と、引き続くガスの過剰産生を起こしながら、間欠的な流出障害及び胃内容排出の遅延に原因した可能性がある。X線撮影及び胃内視鏡検査による胃疾患は実証されなかった。しかしながら、胃内容排出及び幽門活動を評価するための造影剤を用いた機能試験は行わなかった。

この軸捻転を伴うAGDの症例は、間欠的な胃の機能不全及びガス産生性細菌叢の発生の結果起こった可能性が最も高かった。AGDが高タンパクで粗飼料の多い、又発酵性糖質が低い食餌を与えられた動物に発生するのはまれな事に思われた。にもかかわらず、このような食餌は細菌の豊富な増殖を助けるものだろう。この動物の胃粘膜に付着した摂取物における混在する細菌の存在が、このような可能性の証拠である。形態学的にクロストリジウムと一致する細菌が確認されたが、これらはその他の細菌種より数が少なかった。鼓腸を伴うむかつきと腹部膨張の発生は、おそらくコインに誘発されたか、もしくはイヌで見られたように、AGDの前駆症状であると解釈することができる(アンドリュース、1970年)。最も可能性が低いのは、胃に見つかったコインがAGDの直接の原因であるという事だ。消化管のコインは通常、ガスが通過するように過度に回転し、イヌまたは小児の胃のコインとAGD相関関係はない。この症例報告は、AGDの先行的な特徴がある鰭脚亜目の治療を行う人々が、予防的に食餌的、内科的処置が取れるよう喚起を促すはずである。(以下省略)



Journal of Wildlife Diseases, 32(3),1996,pp.548-551
Ⓒ Wildlife Disease Association 1996

Acute Gastric Dilatation with Volvulus in a Northern Fur Seal
(Callorhinus ursinus)







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コモンマーモセットにおける急性胃拡張

Laboratory Animal Science
Copyright 1981
by the American Association for Laboratory Animal Science

F J スタイン, D H ルイス, G G ストット,&R F シス
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テキサス州、カレッジステーション、テキサスA&M大学、獣医学部、獣医解剖学科(Stein, Stott,Sis)及び獣医微生物・寄生生物学科(Lewis)一部、メリーランド州ベテスダ国立研究所、研究資源科からの支援を受けた。カンザス州トピーカ、リビアナフード社企業製品部、ヒルズ部門、マーモセットサイエンスダイエット。インディアナ州エバンズビル、ミート・ジョンソン・ラボラトリーズSustagen®ニューヨーク州ノーウィッチ、ノーウィッチイートン製薬Pepto-Bismol®
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要約
ゲンタマイシン及びfuroxone(一般名フラゾリドン)を用いた抗微生物療法後にマーモセットのコロニーにおいて、急性胃拡張の診断がなされた。全部で29頭の罹患したサルが、胃拡張をきたした後5週間の間に死亡した。全てのサルの胃内容物にクロストリジウム・パーフリンジェンスA型が存在することが証明された。抗微生物療法を行った結果生じた胃内細菌叢の変化が、誘発要因と仮定された。

キーワード:胃拡張 クロストリジウム・パーフリンジェンス Callitrichidae

急性胃拡張は大量のガス、液体による胃の鼓脹、嘔吐、虚脱、死亡などの特徴を有する多くのサル種の疾患である。(中略)

症例報告
抗微生物療法の計画実施後、5週かにわたって29頭のマーモセットが急性胃拡張をきたし死亡したことが本研究を行う動機となった。急性胃拡張と、罹患したサルにおける腸内容物のクロストリジウム・パーフリンジェンスA型の蔓延の間には明らかな関連がある。1975年以来、テキサス州A&M大学において180頭のマーモセットのコロニーを、玉砂利囲い場のついた三戸建モジュール式組立屋内屋外ケージを用いて維持した。サルは急性胃拡張を発症する前、ほぼ17ヶ月間、これらの施設において飼育した。サルの主要な食餌は40~50グラムの缶入り食餌(ヒルズ)のほか、入手できたゴミムシダマシの幼虫や果物を毎日、補助食として与えた。水は自由摂取とした。

1978年12月、モジュール式ユニットのサルが4週間の間、連日死亡した。最初の子ザルが死亡して5日後、子ザルが死亡したケージの近接のケージで2頭の成体ザルが死亡しているのが発見され、またコロニー全体を通じて一過性の下痢が観察された。ソンネ赤痢菌が2頭の子ザルの腸管から回収されたが、その後の成体ザルの腸内容物、及びコロニー残留物の糞便飼料の培養からは赤痢菌その他の腸病原体の存在を明らかにすることはできなかった。しかし、赤痢菌が分離されると直ちに、罹患したハウジングユニットの59頭のサルに硫酸ゲンタマイシン5mg/kgを1日2回、7日間筋肉内投与し、furoxone溶解パウダー2.25g/Lを連日、2週間飲料水に混ぜて治療した。

次に軽度の胃疾病の徴候が認められ、サルはそれまで食べていた食餌を拒絶する一方、少量の液体食餌を容易に受け入れた。胃の不快症状を安定化させる治療として、罹患したサルにサリチル酸ビスマス2.5ml/kg及びネオスポラミン0.002mg/kgを連日、5日間経口投与した。治療は有効性に限界があり、罹患したサルは急性胃拡張をきたす前に、3~5日の間、間歇的な下痢をきたした。5週間の期間中に、29頭のマーモセットが死亡した。罹患したサルは、午前中、腹部拡張をきたしていたが、ほとんどが死亡、または瀕死状態であった。瀕死状態のサルを治療しようと試みたが不成功であった。

病理学的所見
検視した全てのサル(25頭)の腸管は、相当量のガスと淡褐色の液体で拡張していた。いずれの胃にもガスが充満していたが、破裂しているものはなかった。微量のガスの泡及び浮腫が腹側頚部、腹部の皮下筋膜に認められた。空腸及び回腸の粘膜は充血していた。空腸及び回腸の顕微鏡検査により、空腸及び回腸上皮の充血、及び粘膜表面の一部欠損、粘膜固有層の肥厚化、及び細胞性デブリの蓄積が明らかとなった。

微生物学的所見
罹患したサルのケージにあった餌サンプルの10%懸濁液を、還元培養液に入れて希釈し、固形の平板培地上に置いた。平板培地を37℃で、18-24時間嫌気性に培養し、特微的な黒色クロストリジウムコロニーを数えた。クロストリジウム(10個/g未満)が、検査した一部を消費した缶入り定量食餌20サンプルのうち、わずか3サンプルにのみ認められ、液体定量食餌には全く認められなかった。25頭のサルの胃内容物ほぼ1mlを、750ユニット/mlペニシリン、750mcg/mlストレプトマイシン、及び20ユニット/ml マイコスタチンを含む9ml の脳ー心臓注入培養液に混ぜることによりウイルス薬剤処理を行った。(中略)

考察
通常の環境下で一時に、少量の食餌のみしか消費しないマーモセットなどのサルは、過消費する傾向があると考えられるサルよりも急性胃拡張をきたす可能性は少ない。しかし、サルの胃内細菌叢の相対的な組成を変化させる要因も、急性胃拡張において重要な役割を果たすと考えられる。したがって炭水化物で増殖し、異常な程度に、非常に多数の嫌気性微生物を発達させる胃内細菌叢が発達するのを助長する状況は、おそらく急性胃拡張を発症しやすくするであろう。

クロストリジウム・パーフリンジェンスA型は検視の対象となった25頭のサルの胃内容物から回収された。クロストリジウム・パーフリンジェンスは餌から常に回収するということはできなかった。さらに多数の微生物(ほぼ10⁵個/ml )が、計数試験の対象としたサルの胃内容物に認められた。これらの所見は微生物が罹患したサルの腸管において増殖していることを示唆するものである。観察されたクロストリジウムの発生源は知られていない。クロストリジウムは多様なサルの種の正常な細菌叢の大きくない一部であるが、一定の環境下では高濃度に増殖する可能性がある。

急性胃拡張における主要な病因としてクロストリジウム・パーフリンジェンスの役割は、それが胃内容物から回収できるガスを発生する唯一の微生物であるという所見にによって示唆された。本研究における大発生はおそらく、潜在的な赤痢菌家畜流行病を制御する目的で行った抗微生物療法によって、胃内細菌叢がクロストリジウム・パーフリンジェンスの増殖が容易になるように選択的に変化したときに始まったと思われる。







サルの鼓腸症も110番!

           サルのAGD、知っておこう、殺してしまわないために!



論文 サルにおける急性胃拡張:胃内容物、血液、及び餌の微生物学的研究


概要
急性胃拡張をきたした24頭の類人猿霊長類のうち、21頭がその胃内容物にクロストリジウムを有していた。18頭の正常なサルのうち、2頭のみが胃内容物にクロストリジウムを有していた。クロストリジウムは罹患していた5頭のサルを飼育していたケージから採取したモンキービスケット、及び受け入れた11ロットの餌のうち、5ロットから分離された。これらのビスケットを正常なサルに餌として与えて後、この微生物を胃内容物から分離することができた。この病態において、大量のガスを産生することを説明できる微生物は他に分離されていない。

過去3年にわたり、著者らの研究所において、旧世界霊長類4種の34頭が急性胃拡張と診断された。そのうち26頭につき、鼓腸をきたしたサルにおける胃内細菌叢を研究報告するために微生物学的に検査した。これにはヒヒ種9頭、カニクイザル2頭、アカゲザル14頭、及びベニガオザル1頭が含まれている。

これらのサルの大多数には1日1回モンキービスケットを与え、週に1度、オレンジ、リンゴ、ビタミンミネラルサンドイッチを補充餌として与えた。水は自動システムで自由摂取とした。(中略)

微生物学的検査:胃内容物及び血液を、急性胃拡張をきたした26頭から細菌学的検査のために収集した。サンプルはサルの死亡後できるだけ早く採取した。3頭は例外的に死亡前に採取した。18頭(アカゲザル10頭、ヒヒ6頭、カニクイザル1頭、ベニガオザル1頭)のサルを一晩、断食させた後にクロストリジウム・パーフリンジェンスの存在につき胃内容物を試験した。(中略)

断食させた18頭のサル(アカゲザル7頭、ヒヒ種5頭、カニクイザル1頭、及びベニガオザル1頭)のうち14頭に、大量のクロストリジウム・パーフリンジェンスを含むことが知られているモンキー食餌を与えて4~6時間後、再び胃内容物を得た。存在するクロストリジウム様微生物の相対数を決定するためにすべてのサンプル(胃内容物、血液、粉々になったビスケット)をグラム染色した。(中略)

結果
病理学:唯一の一貫した肉眼的異常は胃及び小腸のガス及び淡褐色の液体による重度の拡張であった。胃及び小腸の壁は正常よりも薄く、2頭のサルでは死亡前に胃が破裂していた。1頭のサルを死亡後1時間以内に検査したところ、重度の皮下気腫をきたしていた。(中略)

微生物学:(中略)急性胃拡張をきたしたサルの24頭の胃サンプルにうち、21サンプル(88%)がクロストリジウム・パーフリンジェンス陽性であった。(中略)

5頭の罹患したサルのケージからビスケットを採取したが、いずれもクロストリジウム・パーフリンジェンスA型陽性であった。(中略)

考察
今日までに報告された鼓腸の全例における顕著な特徴は、胃を拡張させる大量のガスの存在であった。この現象は2つの疑問を提起する:(1)外見から判断して、なぜこれらのサルは圧力を軽減するために嘔吐することができないのか;及び(2)このガスの源は何か。大量のガスの存在は、発酵する基質と発酵を可能にする細菌叢の存在を必要とすると考えられる。(3)基質は市販されているモンキー食餌として容易に入手できる。

急性胃拡張をきたした24頭のうち21頭(88%)の胃内容物はクロストリジウム・パーフリンジェンスを含んでおり、連鎖球菌は19頭(79%)のサルに存在していた。18頭の正常な断食をしたサルの中でサンプルとした2頭(11%)のサルに少数のクロストリジウム・パーフリンジェンスA型が認められた。 

一方、連鎖球菌はこれらの14頭(78%)のサルの胃内容物に認められた。したがって、クロストリジウム・パーフリンジェンスは急性胃拡張をきたしたサルにおいて、有意に多く認められる唯一の分離された微生物であり、また顕著な数が認められた唯一のガス産生微生物であった。

これはクロストリジウム・パーフリンジェンスが本症候群における胃のガス鼓腸の原因であることを示唆するものである。多くの血液培養の結果は、胃内容の結果と同様であったが、他の典型的な急性胃拡張のサルが血液培養陰性を示したという事実から、本症候群における主要な要因として、クロストリジウム敗血症を排除する傾向にある。

正常な空腹胃には、2、3の乳酸桿菌、及び腸球菌を例外として細菌叢がないので、これらのクロストリジウムにつき可能性が考えられる源を探求した。多数の食物が媒介するクロストリジウム微生物を疾患の発症の原因とみなすヒトにおける所見に基づいて、餌供給者のところに残されていた餌を検査した。

全部で5つの餌供給者サンプルは陽性であったので、受け入れた餌の輸送物を調べたが、45%がクロストリジウム・パーフリンジェンス陽性であった。餌の中の微生物の数は、ヒトにおいてクロストリジウム腸性毒血症をきたす必要であると報告されている数に達していなかったが、汚染されたビスケットを既知の胃内細菌叢を有するサルに餌として与えた場合にクロストリジウム・パーフリンジェンスA型が全てのサルから分離され、3頭は初期鼓腸の臨床徴候を示した。




B.T.ベネット その他 イリノイ大学医療センター、生物学資源試験所、ラッシープレスビテリアン聖ルークス病院動物資源施設、MDアンダーソン癌研究所、ラルストンピュリナ・モンキーチャウ(食餌) Lab.An.Sci 30:241-244 1980







摂食に関連したAGDのいくつかの類似点

                                             胃病変

動物       原因とされている食品     産生ガス   AGD   捻転   破裂   虚血

ヒト       野菜、スープ、プディング、             ×    ×    ×     ×
         マカロニ、乳汁、パン、ビール

イヌ       市販の膨張型ドライフード   二酸化炭素   ×    ×    ×     ×

サル       市販の膨張型ドライフード   二酸化炭素   ×    ×    ×     ×

ウマ       穀粒                二酸化炭素   ×         ×
「胃スピロヘータ」 イネ科牧草地                   ×         ×

反芻動物    マメ科牧草地          メタン        ×

「フィードロット鼓腸」 穀粒                       ×

「第四胃拡張」    穀粒                       ×    ×           ×

ブタ         蒸留麦芽粕          二酸化炭素   ×    ×

ネコ                          メタン       ×    ×

キツネ        穀物              二酸化炭素   ×

ウサギ     他汁性の草            メタン       ×
         市販の固形飼料

※胃病変・虚血は虚血性壊死を示す。


「急性胃拡張:各動物種の類似点に関するレビュー及びイヌとサルにおける研究」
アメリカ動物病院協会ジャーナル 1974年第10巻からの抜粋

Van Kruiningen, H.J.; Gregoire, K.; and Meuten, D.J,: Acute gastric dilatation: A review of comp arative aspects by species, and a study in dogs and monkeys. JAAHA 10:294-324, 1974.









他の動物種の急性胃拡張(鼓腸症2)

急性胃拡張AGDは、ブタ、ネコ、農場のキツネやミンク、ライオン、ウサギ、ヌートリア、モルモット、ラットやマウスを含む捕獲した野生の肉食動物でも起こる。キツネでは穀類の過剰摂取、またウサギでは新鮮なクローバー、湿った草、炭水化物に富む飼料が原因とされている。




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ドライドッグフードと鼓腸症との関連性を勉強しています。

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